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2024/04/25

ある晴れた日に。







 
ある晴れた日に

僕が目覚めた朝の

景色が変わっていた




ある晴れた日に

窓から吹き抜ける

風の匂いが変わっていた




僕は戸惑って

あたりを見回したけど

探し物はついに

見つからなかった




思い出せないんだ

あんなに大事に

していたはずなのに




愛されていた過去は

戸惑う僕から

遠ざかってゆくんだ




少しずつ

少しずつ




愛されていた過去は

僕の目の前で

色を失ってゆくんだ




少しずつ

少しずつ




ある晴れた日に

僕が目覚めた朝

窓の外に広がる景色




探し物はついに

見つからなかった




そして僕から

遠ざかってゆくんだ

色を失ってゆくんだ




少しずつ

少しずつ










 
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2014/03/28 自由詩:短編を様々な作風で Comment(0)

最後に売っていたもの




「あぁホント残念

 あの店で今日は卵が

 安く売ってたのに」




 その言葉に私は

 微笑みながら応じた




「かの有名な哲学者

 ソクラテスはこう

 言ったそうだよ




 結婚はしたほうがいい

 成功すれば幸せになれるし

 失敗すれば哲学者になれる」




 買い物をし忘れて

 有り合わせで作った

 夕食を無理やり

 飲み下しながら




 目の前の妻も

 微笑みながら

 私に言った




「ケンカ売ってるのね」












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2014/03/14 自由詩:短編を様々な作風で Comment(0)

最後に見た景色




あなたの手が 

そっと離れていく 

余韻をいつも 

置き去りにして 




泣きたくなるほど 

空が青かった 

あなたはそれを見て 

笑っているのに 




何も知らない私を 

何も言わない私を 

望んであなたは 

笑っていた 




雲は姿を変えて 

地平へと流れ行く 

あなたはそれを見て 

笑っているのに 




あなたが望む私 

何も知らない私 

何も言わない私 




泣きたくなるほど 

空が青かった 

もう今はこの空に 

あの雲は見えない 




それは最後に見た景色




過去はいつだって 

取り戻せない 




あなたの手が 

そっと離れていく 

余韻をいつも 




置き去りにして 











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2014/03/10 自由詩:短編を様々な作風で Comment(2)

完全に勝つ人




「無理だな、お前達では 

絶対俺に勝てはしない 

無駄な事はやめておけ」 




こんな台詞で助けるのが 

キレイなお姉さんなら 

言う事はなかったのだが 




「ありがとうね本当に 

あなたは命の恩人よ」 




そう言って目の前で 

泣いて俺に礼を言うのは 

愛嬌のあるかわいらしい 

おばあちゃんだった 




俺は自慢だが学生時代 

ずっと空手をやっていた 

腕もかなりのものだと 

自負していいと思ってる 




しかし真に残念ながら 

俺の今の戦場はこの社会 

しがないサラリーマンの 

下っ端の営業に過ぎない 




過去の輝かしい栄光とやらは 

俺の営業成績に何の貢献も 

してはくれなかった 




せいぜい腹一杯になるまで 

蟻のように働くしかない 




だが今日は少しだけ

いつもの俺とは違う

大きな見積があるのだ

こいつはかなりでかい




プレゼンの資料も完璧

昨日も夜遅くまで見直し

細部のチェックも怠り無い




前日に見積提出先の街に

到着しホテルで一泊の間

自分でも感動する出来の

素晴らしい資料になった




これなら初めて会う顧客も

大満足間違いなしだと思う

翌日、寝坊さえしなければ




慌ててスーツに着替え

宿泊先から取引先へ

俺は全速力で走った




……で、その途中に

このおばあちゃんが

何者かに襲われてるのを

偶然見てしまったわけだ




見積を提出する相手は

もうすぐそこのビルに

いるというのに俺は

完全に遅刻が確定した




でも目の前で泣いている

おばあちゃんを見てると

恨む気にはなれなかった




「命の恩人なんて大袈裟だよ

ほらおばあちゃん

大丈夫かい

立てるか?」




俺はそう言って

手を差し伸べたが

おばあちゃんの手は

俺の手に届かなかった




腰を抜かしているようだ




俺はおばあちゃんを背負って

おばあちゃんが指差す方向へ

力無く歩く事にしたのだった




「本当にごめんなさいね

何か用事があったのじゃ

ないかしらひょっとして」




おばあちゃんは気を使って

そう言ってくれたが俺は

失望を必死の努力で隠し

努めて明るくこう答えた




「いいさ、どうせ可能性の低い

成功するかどうかわからない

不確定の仕事の話だったから




それよりおばあちゃんこそ

口から血が出てるじゃないか

ひどい事する奴らだな、全く

何で警察を呼ばなかったんだ」




おばあちゃんは

震える細い声で

悲しそうに答えた




「あれは私の親戚なのよ」




絶句した俺に彼女は

さらに言葉を続けた




「このあたりは昔は

ずっと向こうまで

田んぼだけだった




私は幼い頃貧しくてね

その辺に生えてる物で

食べられる植物を煮て

飢えを満たしていたわ




お金が無ければ

幸せになれない




若い頃はそう信じて

必死になって稼いだ

田んぼを売った金で

事業を起こして、ね




私はただ幸せに

なりたかっただけなのに




いつの間にか私の財産を

狙う親族間の醜い争いに

巻き込まれてしまったの




人生の最後で私は

こんなにも不幸に

なってしまったわ」




再びおばあちゃんは

俺の背中で泣き始めた

なぐさめる方法なんて

わからないまま俺は言った




「俺さ、実は見捨てて行こうと

最初は思ってたんだよね

でも今はもう後悔して無いよ



おばあちゃんの言う通りだ

さっきまでの俺は目の前に

ぶら下げられたニンジンに

興奮して走っていたんだ




あるかどうかもわからない

成功と金を期待してね




そうだよね、人間食べて

友人がいて、家族がいて

毎日生きていけるだけで

それだけでもいいんだな




実は本当の幸せなんて

もう既に手に入れて

いるかもしれないのに

それにも気付かずにさ




醜い男だよね、俺も」




おばあちゃんは笑いながら

こんな事を俺に言った




「あらそんな事は無いわ

貴方とってもいい男よ

私が50年若かったら

放っておかないけどね」




俺は唇の端を

引きつらせながら

無理やり笑顔を作って答えた




「あ、ありがとう

気持ちだけ頂いておくよ」




すぐ先の街角を左に

曲がったところで

おばあちゃんは

指差してこう言った




あのビルよ私の会社

取引先の営業の子が

もう来てるはずだし

急いで戻らないとね
 
 
 
 
……俺が見積を出す会社だった












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2014/02/18 自由詩:短編を様々な作風で Comment(0)

完全に知る人




「俺ね、フラれたんだ 

昨日相談した総務の娘に」 








私はこのバーが好き 

狭いけど落ち着いた 

雰囲気とジャズの調べ 




普段ジャズなんて 

聞かない私だけど 




センスのあるレトロな 

調度品が飾られていて 

明る過ぎないライトに 

柔らかく浮かび上がる 




窓の外には夜の街並 

葉を落とし寒々とした 

木々にライトアップの 

眩しい光の花が咲き誇る 




窓の外の街の夜景が 

遠く地平線の彼方で 

天の星々と溶け合う 




素敵な夜になりそうだ 

目の前の暗雲のように 

落ち込んだ同僚の彼が 

いなければの話だけど 




彼は会社の研修で

知り合って以来の

4年越しの腐れ縁




決してモテないわけじゃ

ないのだけれどなぜだか

損ばかりする性格なのは




私だけが知ってる秘密




そして彼はお酒の

力を借りた時だけは

ほんの少し饒舌になる




「俺ね、フラれたんだ

昨日相談した総務の娘に」




そんな彼の告白を

美味しくもない

ツマミにしながら

私はさらにお酒を飲む




「で、その代替品として

私を誘ったわけなんだ

失礼な男だわ貴方って」




私は、とりあえずそんな

冷たい言葉を彼に返した

彼もそこは理解している

少し気まずそうに笑った




「だってそういう時の

女性の気持ちなんて

俺って鈍感だからさ

わからないんだよね
 
 
相談出来そうな人って

君しかいないからさ俺」




本当に彼は不器用な人だ

いつだってこんな感じで

損な役ばかりをしている




彼は少し落ち込んでいたようだ




それでも気を取り直し

無理に笑顔を作って

彼は私に話しかける




「だから今日は付き合って

飲みたい気分なんだよね」




その寂しげな笑みの

理由を私は知ってる




昨日、彼は私に聞いた

こういう時の女性って

どんな気持ちなのって

実にヘタな三文芝居で




本当に彼は不器用な人だ

いつだってこんな感じで

損な役ばかりをしている




たぶん彼は噂になって

彼女を傷付けない様に

自分がフラれたことに

したいのだろうと思う




彼は全く知らないけど

実は私は総務の娘にも

彼の相談を受けていた

昨日告白をしたらしい




フラれたのは彼女だった




好きな人がいるから、と

彼女の告白を断ったのは

本当は目の前の彼の方だ




好きな人がいるから、と……




そしてすぐ翌日に

私は彼に誘われた

いいわよ奢りなら

私はそう答えてた




私はこのバーが好き

狭いけど落ち着いた

雰囲気とジャズの調べ




普段ジャズなんて

聞かない私だけど




素敵な夜になりそうだ











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2014/02/17 自由詩:短編を様々な作風で Comment(0)

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「3年待ってね」

「天国に降る雪」

「想いは流れる」(短編)

「いつだって僕の」

「サン・ミシェルの少女」

「想いは流れる」(長編)

「粉雪と涙」

「君の歌が聞こえる」

「最後の言葉」

「天使の両翼」

「君の歌が聞こえる」(後書き)

「最後に見た景色」

「想いは流れる」(後書き)


「君の歌が聞こえる」は初めて

ブログ部門でも評価頂きました。
 
 

注目記事全国ランキング上位作品

「君の歌が聞こえる」9970人/1位

「3年待ってね」5478人/1位

「アルテミスの弓」6171人/1位

「サン.ミシェルの少女」5377人/1位

「珍しいペット」5365人/1位

「君の歌が聞こえる」5438人/2位

「夢も見ずに」5407人/2位

「消えていく私」5423人/2位

「戦争と平和と愛について」5356人/4位

「冥府に住む聖者」5362人/5位

「天国に降る雪」5351人/5位

「悠久の中の一瞬」5339人/5位

「欠片の記憶」5422人/9位

「消えていく世界の片隅で」6203人/9位

 
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「冥府に住む聖者」公開5日目

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にて五作品紹介

「オルフェウスの竪琴」

「その向こうに見たもの」

「無理に笑う人」

「夢も見ずに」

「四月になれば」



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