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2024/04/23

20ドルの微笑み(前編)

 




 
 

19世紀には既に 


メキシコとアメリカの国境を 

挟んだ密輸は日常だった 




民衆は国境内外で 

値段が異なる物を売り 

僅かな収入を得ていた 




1930年代には禁酒法撤廃をきっかけに 

ヘロインやマリファナが需要を増し 

運び込まれるようになった 
 
 





 
 
「俺は強盗だ 

金目の物全て出すなら 

命だけは 

見逃してやってもいいぜ」 




寂れた街道の途中で 

呼び止めた女性に 

男は銃口を突き付けた 

彼女は震える声で言った 




「子供の命を救うには 

お金がどうしても 

必要なんです 

見逃してください」 




男の目が 

薄く細められた 




「こども……

だと?」 




その場所に銃声は響かず 

間も無く陽が落ちて 

あたりは暗闇と 

静寂に包まれていった 









1850年代にはアメリカで 

アヘン中毒は深刻な 

社会問題となった 




解決策として

当時は作用が弱く

中毒性が無いと

見られていた薬物




モルヒネがアヘン中毒者に与えられた




モルヒネ中毒はすぐに

アヘン中毒よりもさらに

大きく深刻な問題となった









「貴方は強盗だと

確かそう言いましたよね

どうして私のお金を

奪わないのですか?」




彼女のその言葉に

男はそっけなく

無感動に応じた




「いい男だからさ俺は

ここは麻薬の売人が

国境を越えるルートだ

食う為に女も運び屋をやってる




あんたみたいな女もな




国境の向こうじゃ

コカインの相場が暴落

ヘロインが売れなくて

だぶついてるのさ




売人は国境を越えて

だぶついたヘロインを

向こう側で捌こうって

そういう寸法だ




言うなれば俺は

麻薬の蔓延を防ぐ

正義の味方ってやつさ

無論実益も兼ねるがね」




彼女は男をじっと見つめた

そんな彼女に気圧されて

男は慌てて言葉を続けた




「勘違いするなよ

そんな辛気臭え金で

飯なんぞ食っちまったら

寝覚めが悪いからな




それだけだ」




彼女はついに吹き出して

笑ってしまった

ひとしきり笑った後に

彼女はさらに男に尋ねた




「お金はともかく

奪った麻薬は

どうされているのですか?」




男は身を隠している

岩陰の石にもたれかかり

つまらなそうに応じた




「川に捨ててるさ

食えるものじゃ

ねえからな




それよりお前さん

本当に子供を救いてえなら

今日はここで眠ることだな




このあたりには

俺みたいなのが

うじゃうじゃいるぜ




そいつらはためらわず

引き金を引くぜ

そしてあんたの金は子供に

永久に届かない」




脅すつもりで男は

そう言ったのだが

なぜか女性に怯んだ

様子は無かった




「不思議な人ですね

貴方はどうして

その銃の引き金を

引かなかったのですか?」




男はその言葉に

目を閉じて答えた




「俺には娘がいた

もう死んじまったがな」




彼女は突然理解した

なぜ彼が自分を

殺さなかったのかを









アヘンと同じように

モルヒネの患者には

また別の中毒性がない薬物

ヘロインが与えられた




だがそれはモルヒネよりも

さらに中毒性が高い薬物だった









だが二人の会話は

そこで突然の中断を

余儀なくされた




乾いた銃声が辺りに轟き

二人が座る場所の

わずか先の石を

砕いたからである




彼女は悲痛な声で

彼に向かって叫んだ




「私を追ってきたのだわ

逃げてください

あの人たちの目的は

私だけなのです




あなたを

あなたを巻き込むわけには……」




彼女の言葉は

そこで途切れてしまった




彼が彼女の手を引いて

森の奥へと

走り始めたからである









コカインの性質が

把握されてなかった時代




依存性は無いと考えられた為

他の薬物依存症の患者に対し

コカインを処方し

治療する者もいた




著名な心理学者フロイトも

他者と自身にコカインを処方し

重大な依存症を引き起こした









しばらく走った後

二人は大木の根元の

小さな窪みに身を隠した




息を切らしている彼女に

煙草に火を付けながら

男は話しかけた




「こんなひでえ目に

あわされてるんだ

理由を聞く権利ぐらい

俺にはあると思うんだがね」




彼女は目に涙を溜め

彼の言葉に答えた




「私がどれだけ働いても

子供を救うお金を

稼ぐのに何年も何年も

かかってしまいます




商品の取引で目の前に

目の前にお金があったの

これが子供を救える

そう思ったら




気が付いたら私は

お金を持って

国境に走ってた……」




彼は煙草の煙を

くゆらせながら

面白くも無さそうに笑った




「魔が差したってとこか

おそらくあんたの良識は

有給休暇をとって明後日の

方向へ旅行中だったんだな




どうやら奴ら

金を取り戻すために

ヤバい連中を

雇ったみたいだぜ




まったく

稼ぎの悪い亭主を持つと

大変だねえ女ってヤツは」




その言葉に彼女は

涙に光る瞳で

笑みを作りながら言った




「夫はいません

あの国境の向こうでは誰もが

自分一人が食べるだけで

精一杯なのですから」




彼は吸い終えた煙草を

闇の中へと投げ捨てた
 
 
 
 
「そんな話には興味ないね

身の上話なんざ俺の

腹を満たしてはくれねえ




どうでもいいがあんた

相当な金額を

ふんだくったみてえだな

どこにそんな金持ってるんだ?」




彼女は力なく笑って答えた




「切手にかえました

到底持てる重さでは

なかったので……」




彼は愛用の銃に

弾を込めながら

感嘆の声をあげた




「ほう……なるほど

おりこうさんだな

俺がそう思ったのは

あんたで二人目だ」




彼女は涙を

拭いながら彼に聞いた




「じゃあ一人目は

誰だったの?」




彼は唇の端を

僅かに吊り上げて

片目をつぶりながら

こう答えた




「決まってる

死んだ娘だ」













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2014/01/23 自由詩:短編を様々な作風で Comment(0)

オルフェウスの竪琴(後編)





暗い世界の奥に光が見え 

冥界からあと少しで 

抜け出すというところで 




不安に駆られたオルフェウスは 

愛するがゆえに耐え切れず 

そしてもうすぐだという 

安堵感から 




つい後ろを振り向き 

妻の姿を見てしまった 




妻の悲しそうな顔 

聞き取れなかった細い声 

冥界の王との約束を 

守れなかったが為に 




愛しい妻の姿は 

再び冥界の闇の中へ 

連れ戻されて消えていった 









男は彼女と 

同じ景色を眺めながら 

つぶやくように話した 




「地中海はもともと古い時代 

女性の神様が信仰された 

土地なのですよ 




地母神信仰ですね 

先インドヨーロッパの

母系社会が起源です

いつの時代も女性は強い」




彼女は少し声に棘を含ませた




「茶化しているの?

それとも私を哀れんでいるの?」




男は屈託無く笑いながら

その言葉に応じた




「いえすみません

気分を害されたなら謝ります

そんなつもりで

言ったわけではないのです




ご存知ですか

ギリシャ神話で有名な

オルフェウスの父は

ここトラキアの王だったのです」









以後オルフェウスは

全ての女性をさけていた




トラキアの乙女たちは

彼を虜にしようとしたが

彼は見向きもしなかった









彼女は息を大きく吸い込み

ゆっくりと吐き出した




「それも知っているわ

皮肉ね

私はまるで

オルフェウスのようだわ




あの男は言ったの

見るなって言ったの

でも私はつい見てしまった




見なければ

たとえ虚像だったとしても

幸せな未来があったかもしれない

知らずに過ごす偽りの幸せが




ただオルフェウスと私が

決定的に違うのは

私があの人を殺したこと

私自身がこの手で
 



そう私はむしろ

オルフェウスを殺した

女の方だったかもしれない




犯人は私よ

貴方が探していたのは

間違いなく私よ

覚悟は出来ているわ」









ディオニュソスの儀式の時

どうしても彼を虜に

できなかった女達は興奮して




私達を馬鹿にする人がいる




と狂乱し

オルフェウスは手足を裂かれ

頭と竪琴はヘブルス川へ投げ込まれた




そしてその竪琴は

彼を哀れに思ったゼウスが

星の中に星座として掲げた









彼女のその言葉に

苦笑しながら男は話した




「残念ながら私は

警察ではありません

貴女が殺そうとした方から

依頼を受けました」




彼女は驚愕のあまり

その場に凍りついたように

動けなくなってしまった




そんな彼女に

柔らかな笑みで彼は

言葉を続けた




「彼は輸血で一命を

取り留めましたよ

そして警察に被害届は来ず

そのかわり私に依頼が来ました




あの方は妻と完全に切れるよう

別れ話をしていたに過ぎません

だが運悪くそこを

貴女が見てしまった」




彼女は震える声で

彼に確認した




「確かに私はあの時怖くなって

すぐその場を逃げたけど

生きて

生きているんですかあの人?」




男は再びにっこりと

笑って答えた




「生きています

そして

今でも貴女を愛していると」




その言葉に彼女の瞳は

大粒の涙であふれ

そのままその場に泣き崩れた




しばらく泣き続けていた彼女は

やがて泣きはらした目を

男に向けてこう聞いたのだった




「私は

私はあの人のところに

戻ってもいいのかしら……」




彼は優しい声で

うなずきながら答えた




「オルフェウスの続きの話は

ご存知ですか?

オルフェウスはその後

死後の世界で




愛する人に再び逢えたのですよ」













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2014/01/22 自由詩:短編を様々な作風で Comment(0)

オルフェウスの竪琴(前編)

 




 
 
アポロンより伝授された竪琴

オルフェウスがそれを弾くと

動物達や木々や岩までもが

彼の周りに集まり耳を傾けた
 
 




 
 
「いやぁ

本当に美しい場所ですね」




立ち並ぶ石を 

呆然と眺めていた女性に 

一人の男が 

そう言って話しかけた 




女性は興味も無さそうに 

男を一瞥し 

再び視線を 

その石の塊へ向ける 




「ここはブルガリアでも 

特別な場所ですね 

旧ギリシア時代の 

トラキアゆかりの遺跡です」 




男のその言葉に 

彼女は静かに冷たく応じた 




「知っているわ 

私はこの近くに住んでいたから」 




男は少し驚いた後に 

うなずきながらさらに 

彼女に言葉を続けた 




「なるほどそれで貴女は

この場所を選んだわけですね」




彼女は再び男に視線を向けた

先ほどと違ってその目には

猜疑の光が宿っている




「貴方はただ観光に

来たわけではなさそうね

何者なのかしら?」




男は不思議と憎めない

愛嬌のある顔でにっこりと笑って

その問いに答える




「貴女を追っている者です

と言ったら

貴女はどうしますか?」








オルフェウスの最愛の妻

エウリュディケーは

ある日毒蛇にかまれ

幸せの中突然の死を迎えた




絶望に悲しむオルフェウスは

やがて妻を取り戻す決心をし

死者のいる冥府に入った








彼女は全く驚いた様子を見せず

美しい顔に侮蔑を浮かべながら

落ち着いた声で言った




「別にどうもしないわ

こうなると知ってたから




貴方

私を捕まえに来たのでしょう

そうよ

あの男を殺したのは私」








オルフェウスの竪琴の音色に

冥界の人々は魅了され

みな涙を流して聴き入った




ついにオルフェウスは

冥界の王ハデスに会い

その竪琴を奏でて最愛の妻

エウリュディケーの返還を求めた








彼女はさらに淡々と

まるで他人の事の様に

無感情な声で話し続けた




「この場所は私が好きだった場所

子供の頃はこの石っころが

どれだけ価値があるかも知らず

よく乗っかって遊んでいたわ




あの男は奥さんと別れて

私と一緒になると誓ったの

もう奥さんとは絶対に

会わないと誓ったのよ




だけど私

見てしまったの

あの男が

奥さんと会っているところを」








オルフェウスの哀しい琴の音に

涙を流すハデスの妻ペルセポネに

説得されたハデスは




冥界から抜け出すまで

決して後ろを振り返って

妻の姿を見てはならぬ




その条件を付けて

妻エウリュディケーを

オルフェウスの後ろに従わせて送った








男の表情から笑顔は消え

沈痛な面持ちで彼女に言った




「そうでしたか

昨日の朝にそんなことが」




彼女は視線を遺跡に戻した




「だから私いそいで

列車に乗ってここへ来たの

最後にこの景色を

見ておきたかったから……」
 





 
 
 
 
 
 
 

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2014/01/21 自由詩:短編を様々な作風で Comment(0)

粉雪と涙





粉雪が

ひらひらと

舞い降りて




わたしの

てのひらへ

舞い降りて




さっき拭いた涙と

いっしょになって




とけて消えた














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2014/01/16 自由詩:短編を様々な作風で Comment(0)

コ・ワ・レ・ル





君の親友の娘いるよね 




彼はそう言いながら 

私の方を振り返って 

屈託無く微笑んだ 




実は俺さ 

好きなんだよね彼女 




驚きを隠しながら 

笑みを浮かべて 

私は彼に応じた 




そっか 

応援するよ 




あれ、何だろう 

私笑ってルよね今 

ちゃンと笑えているヨね




アれ、何だろウ

ワたしノ笑顔が崩レてる

まワリの景色ガ遠くナる




あレ、何ダろウ

泣いテルのワたシ

なゼナイテるンダワタし




コワれル

アア、ワタしガコわレテイク














撮影者:サヤキ

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2014/01/16 自由詩:短編を様々な作風で Comment(0)

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「粉雪と涙」

「君の歌が聞こえる」

「最後の言葉」

「天使の両翼」

「君の歌が聞こえる」(後書き)

「最後に見た景色」

「想いは流れる」(後書き)


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「夢も見ずに」5407人/2位

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「天国に降る雪」5351人/5位

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「オルフェウスの竪琴」

「その向こうに見たもの」

「無理に笑う人」

「夢も見ずに」

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