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2024/04/27

オルフェウスの竪琴(後編)





暗い世界の奥に光が見え 

冥界からあと少しで 

抜け出すというところで 




不安に駆られたオルフェウスは 

愛するがゆえに耐え切れず 

そしてもうすぐだという 

安堵感から 




つい後ろを振り向き 

妻の姿を見てしまった 




妻の悲しそうな顔 

聞き取れなかった細い声 

冥界の王との約束を 

守れなかったが為に 




愛しい妻の姿は 

再び冥界の闇の中へ 

連れ戻されて消えていった 









男は彼女と 

同じ景色を眺めながら 

つぶやくように話した 




「地中海はもともと古い時代 

女性の神様が信仰された 

土地なのですよ 




地母神信仰ですね 

先インドヨーロッパの

母系社会が起源です

いつの時代も女性は強い」




彼女は少し声に棘を含ませた




「茶化しているの?

それとも私を哀れんでいるの?」




男は屈託無く笑いながら

その言葉に応じた




「いえすみません

気分を害されたなら謝ります

そんなつもりで

言ったわけではないのです




ご存知ですか

ギリシャ神話で有名な

オルフェウスの父は

ここトラキアの王だったのです」









以後オルフェウスは

全ての女性をさけていた




トラキアの乙女たちは

彼を虜にしようとしたが

彼は見向きもしなかった









彼女は息を大きく吸い込み

ゆっくりと吐き出した




「それも知っているわ

皮肉ね

私はまるで

オルフェウスのようだわ




あの男は言ったの

見るなって言ったの

でも私はつい見てしまった




見なければ

たとえ虚像だったとしても

幸せな未来があったかもしれない

知らずに過ごす偽りの幸せが




ただオルフェウスと私が

決定的に違うのは

私があの人を殺したこと

私自身がこの手で
 



そう私はむしろ

オルフェウスを殺した

女の方だったかもしれない




犯人は私よ

貴方が探していたのは

間違いなく私よ

覚悟は出来ているわ」









ディオニュソスの儀式の時

どうしても彼を虜に

できなかった女達は興奮して




私達を馬鹿にする人がいる




と狂乱し

オルフェウスは手足を裂かれ

頭と竪琴はヘブルス川へ投げ込まれた




そしてその竪琴は

彼を哀れに思ったゼウスが

星の中に星座として掲げた









彼女のその言葉に

苦笑しながら男は話した




「残念ながら私は

警察ではありません

貴女が殺そうとした方から

依頼を受けました」




彼女は驚愕のあまり

その場に凍りついたように

動けなくなってしまった




そんな彼女に

柔らかな笑みで彼は

言葉を続けた




「彼は輸血で一命を

取り留めましたよ

そして警察に被害届は来ず

そのかわり私に依頼が来ました




あの方は妻と完全に切れるよう

別れ話をしていたに過ぎません

だが運悪くそこを

貴女が見てしまった」




彼女は震える声で

彼に確認した




「確かに私はあの時怖くなって

すぐその場を逃げたけど

生きて

生きているんですかあの人?」




男は再びにっこりと

笑って答えた




「生きています

そして

今でも貴女を愛していると」




その言葉に彼女の瞳は

大粒の涙であふれ

そのままその場に泣き崩れた




しばらく泣き続けていた彼女は

やがて泣きはらした目を

男に向けてこう聞いたのだった




「私は

私はあの人のところに

戻ってもいいのかしら……」




彼は優しい声で

うなずきながら答えた




「オルフェウスの続きの話は

ご存知ですか?

オルフェウスはその後

死後の世界で




愛する人に再び逢えたのですよ」













写真提供:free.stocker 様
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2014/01/22 自由詩:短編を様々な作風で Comment(0)

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