[PR]
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
- Newer : あ・と・が・き「永劫に続く夜の中で」
- Older : 「永劫に続く夜の中で」第九詩:ルルドの魔女
Destination Station of a Dream
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
富が欲しいか、名声が欲しいか
権力が欲しいか、金が欲しいか
そんな物を私は欲していなかった
昨日から続く
当たり前の日常
平凡な幸せ
それが明日も
そしてその後も
ずっと続く
ただそれだけで良かった……
暖かなベッドとシーツ
質素だが整理された小部屋
辺りに漂うスープの匂い
ここは天国だろうかと彼女が
勘違いしてしまったのも
無理からぬ事であったかもしれない
彼はどうやら
彼女が目を覚ました事に
気付いたようだった
「ご気分はいかがですか?
手荒な真似をしたことを
まずはお詫びします」
彼女は突然跳ね上がるように
ベッドから起き上がった
何がどうなっているのか
全く状況がわからない
その様子が少し可笑しくて
彼は失礼だと思いながらも
つい笑ってしまいながら
言葉を続けた
「あの場所であなたを説得する
時間の余裕はなかった
でもあなたの意思は固く
梃子でも動きそうに無かった」
その彼の言葉を聞いても
未だに彼女は混乱から
逃れることは出来なかった
彼は笑うのをやめ
心配そうに彼女を見つめる
「すみません、ひょっとして
まだ気分はすぐれませんか
時間は砂金より貴重でした
焦っていたかもしれません
手加減をする余裕も
私にはありませんでした
本当に申し訳ありません」
彼女は我に返ったように
あらためてシーツにくるまれた
自分の体を確かめてみた
後頭部に鈍い痛みが
かすかに残る以外には
毛ほどの傷も無かった
その様子を見て
安心したように彼は
さらに言葉を続ける
「あなたは死んだのですよ
もう追っ手は来ないでしょう
あなたは逃走し崖から落ちて
死んだ事になっています
あなたの死体は私が確認したと
報告も済ませました
そうする為にあなたを気絶させて
ここまで運んだのです
あの場所であなたを説得する
時間の余裕はなかった
でもあなたの意思は固く
梃子でも動きそうに無かったから
もうあなたは自由なのです」
そこで初めて彼女は彼の左腕に
きつく布が巻かれ大量の血が
滲んでいる事に気が付いた
彼は苦笑しながら弁解した
「これは狂言を本物に見せるために
どうしても必要でした
あなたに切られた事になっています」
彼女はそれを見て
初めてこの場所で声を出した
「血がこんなにたくさん
私の為にこんなことまで……
切ったのは私であるも同然です
ごめんなさい
本当にごめんなさい」
彼女は自分が切られたか
それ以上の様な悲痛な表情で
すぐさま彼に駆け寄って
その瞳から大粒の涙を流した
その姿を笑いながら彼は
優しく見ていた
「心配はいりません
傷はいつか癒えます
しかしあなたを見殺しにする
その傷はきっと一生癒えなかった
あなたがこの家で初めて話した事は
自分の事ではなく私の事だった
あなたを救うという選択が
間違いで無いと確信できました
あなたはあんな場所で
死ぬべき人ではありません」
彼女はその言葉を聞いて
肩の力が抜けたように座り込み
花のように優しく微笑んだ
そこでやっと
自分が助かった事に
彼女は気付いたのだった
だがここへ長居してはいけない
見つかったらまたこの方に
ご迷惑をかけてしまう
でもいつか必ず戻ってこよう
こんな私でも
出来ることがあるかもしれない
それをやり遂げたら
またいつか必ず戻ってこよう
そして彼女は再び旅に出る
教会から教会へ
彼女は巡礼の旅を続けた
告白し懺悔し苦しむ多くの人々に
彼女は様々な事を静かに語っていた
そして様々な言葉を
人々の記憶へ残して去っていった
世界にまだ錬金術と精霊
魔法があると信じられていた最後の時代
巡礼の旅を続ける一人の女性の姿があった
写真提供:総合素材サイト|ソザイング 様
詩・ポエム ブログランキングへ ←良い記事と思って頂けた方、宜しければクリックお願いします
2014/01/15 散文詩:連作で小説に近い詩 Comment(0)
COMMENT
COMMENT FORM