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Destination Station of a Dream
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彼女のか細い悲鳴が
闇よりも深く死の様に暗い
空虚な独房の空気を切り裂いた
私は驚いて彼女の口を
慌てて片手で塞いだ
再び静寂が辺りを支配する
彼女は抵抗しても無駄だと
思っているのだろうか
目を閉じて身動ぎもしない
震えているというのに
出来るだけ落ち着いた声で
私は彼女に話しかけた
早く安心させてあげたかった
そのまま静かに聞いて下さい
私を覚えていらっしゃいますか
以前あなたの話を聞いた者です
彼女は恐る恐る目を開いた
そして私を確認すると
肩の力が抜けたように座り込み
そして花のように優しく微笑んだ
はい、覚えています
野いちごの魔法はいかがでしたか
私は周りが暗かった事に
感謝しなければならなかった
恥ずかしい様な照れ臭い様な
きっとそんな顔をしていたから
子供が喜びはしゃぐ姿を
あなたにも見せたかった
私はそれだけ答えるのが
精一杯だった
だが時間は砂金より貴重だ
私は急いで説明を始めた
あなたを助けに来ました
急いでこの場所を離れましょう
あなたはこんな場所で
死ぬべき人ではありません
彼女は少し驚いた表情で
真っ直ぐな瞳で私を見つめ
そして寂しげで儚げな笑顔で
静かにしかし毅然と答えた
残念ですがそれはできません
行けばあなたとご家族に
迷惑をかけてしまいます
思いもしなかった言葉
なす術も無く立ち竦む私に
彼女は言葉を続けた
誰かを犠牲にして
自分だけ助かるなら
私の今までの言葉が
皆嘘になってしまいます
その時の彼女の姿を
私は生涯忘れないだろう
壊れてしまいそうな微笑を
凛として美しい眼差しを
思いもしなかった言葉
なす術も無く立ち竦む私に
さらに彼女は言葉を続けた
私は死を恐れるあまり
全てを恨んでしまいました
私は死を恐れるあまり
神は私を見限ったと思いました
私は死を恐れるあまり
世界は私を拒絶したと思いました
そして私は自分の言葉さえ忘れ
堕落したかもしれなかったのです
でも貴方がここへ来て頂けた事で
私の魂は救われました
私の言葉に耳を傾けて下さった
私の言葉を覚えていて下さった
それがまた他の誰かに伝えられ
やがて多くの人に広がっていく
ほんの僅かでもそんな希望が
持てたまま私は死ぬ事ができる
取るに足らぬ僅かな私の生も
無駄では無いかもしれないなんて
私は幸せです
貴方にたったひとつだけ
最後にお願いがあります
この夜が終わりを迎えたら
私がどうなるかわかっています
酷い拷問を受けるでしょう
嬲り者にもされるでしょう
その時私はまた挫けてしまう
もう何も恨みたくないのです
貴方にたったひとつだけ
最後にお願いがあります
どうか貴方のその剣で
今ここで私を殺して下さい
牢内で私が錯乱して暴れ
仕方なく切ったという事にして
今ここで私を殺して下さい
私にあなたのその剣を
お貸し下さるのでもかまいません
明日きっと私はまた挫けてしまう
もう誰も恨みたくないのです
この幸せな気持ちを抱いたまま
静かに死にたいのです……
なんという哀しい願いだろうか
そして私は生涯忘れないだろう
その壊れてしまいそうな微笑を
凛として美しい真摯な眼差しを
だが時間は砂金より貴重だ
彼女の無垢で純粋な想いに
私は覚悟を決めなければならない
剣を握る手に冷たい汗が流れる
永劫に続く夜の中で
彼女のその細い体は
鋭く貫く衝撃とともに
力無く冷え切った床へと
眠る様に崩れ落ちていった
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2014/01/15 散文詩:連作で小説に近い詩 Comment(0)
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