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「天使の両翼」第八詩：邂逅と明日
この呪われた時の狭間で
生まれて初めて神に祈った
この命では足らなかった
神を恨みながら祈った
心が乾くのがわかる
精神が蝕まれて
壊れていくのがわかる
失うのが怖かった
消えゆくのが怖かった
これ以上この痛みに
もう耐えられなかった
絶対の虚無が涎を流し
全てを飲み込むべく
舌なめずりを見せて
心の奥底に牙を突き立て
無慈悲に粉々に噛み砕く
抗う力は残されなかった
激しい焦燥が死を誘う
追憶の甘い誘惑が
意識を奈落の底へ誘う
この命では足らなかった
生まれて初めて祈った
神を恨みながら祈った
凄惨で残酷な
この呪われた時の狭間で……
もう二度と
来ないと思っていた
何よりも大切な
彼女との時間
彼はこの望外の幸せを
噛みしめながらも
沈んだ声でついにあの時に
言えなかった言葉を告白した
｢ありがとう
でも駄目なんだ
手が施せないほど
もう僕の身体は……」
彼女は両手で
自分の顔を覆い
彼の不幸を嘆き
涙で頬を濡らした
やるせない気持ちに
心を痛めながらも
彼は努めて優しく
妻に声をかけた
｢だからもう僕の事は……」
彼の言葉はそこで止まった
涙を拭いながら
再び彼女が
彼を抱きしめたから
｢私は決めたの
あなたがたとえ死んでも
私はずっと
あなたのそばにいる
私は決めたの
あなたがたとえ去っても
私には子供がいるわ
私生きていける」
驚いて思わず彼は
妻の顔を覗き込んだ
彼女はにっこりと
夫に微笑みかける
｢そう
私とあなたの子よ」
まだ涙の残る顔で
悪戯っぽく笑う妻を
彼は呆然と眺めながら
うわ言の様に言った
｢馬鹿な……
君は子供を
子供を堕ろしていなかったのか」
彼女はその彼の反応を
楽しんでいるかの様に
幸せそうな表情を見せた
子供みたいな無垢な瞳で
｢あなたの身体と同じ
もう私も手遅れよ
産むしかないわね」
彼は絶句した
目の前の美しい妻を
固まった様に凝視しながら
やがて震える声で彼女に話しかけた
｢君はまだ若い
いくらでも
やりなおせるはずだろ
なのになぜそんな事を……」
再び彼女は
両手で優しく
彼の口をふさいだ
｢私もうすぐあなたを失うわ
だからせめて
あなたの子供と
一緒に生きていきたい
せめてあなたの子と一緒に」
彼はついに
その溢れる感情を
抑えることを諦めた
彼の大粒の涙が
愛する妻の手に
こぼれ落ちていく
｢君って人は
馬鹿だよ……
馬鹿なのは君の方だ」
今の彼にはもはや
その言葉だけで精一杯だった
無駄な遠回りをしてしまった
彼はそんな事を考えながら
再び手にした
この幸福に酔いしれている
そして二人は
再びお互いを強く
抱きしめ合った
彼の耳元で
彼女が優しくささやきかける
｢約束するわ
私と私達の子供は
もう決してあなたのそばから離れない」
写真提供：skyseeker 様
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2014/01/19 詩 劇：広義の詩的形式の劇 Comment(0)
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