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2024/05/17

あとがき。「天国に降る雪」




今日我われは知っている。




愛の反対は憎しみではない。

無関心である。

信頼の反対は傲慢ではない。

無関心である。




文化の反対は無知ではない。

無関心である。

芸術の反対は醜さではない。

無関心である。




平和の反対は、平和と戦争に対する無関心である。

無関心が悪なのである。

無関心は精神の牢獄であり、我われの魂の辱めなのだ。




人々の無関心は常に攻撃者の利益になることを忘れてはいけない。

エリ・ヴィーゼル(ヴィーゼル・エリエーゼル)

ノーベル平和賞受賞者・ボストン大学教授・ユダヤ人アメリカ作家




こんにちは、サヤキです。今回のあとがきはこの言葉からはじめます。

ずっと私が誤解していたのは、もの書きである以上「思想」からは誰も

逃れる事はできない、そう思っていました。




残念な事に、今はその考えが揺らいでいました。

「言葉」とは、伝達手段です。相手に伝える為にあるものです。

言葉を受ける人がそれをどう感じるか、それ無くしてモノは書けない。




そう思っていました。




ヴィーゼルさんは、ホロコースト(国家等の組織的大量虐殺)を受けた方です。

その体験を現在の思想に昇華させ今日に至ったと推測されます。

反論する人も含め、多くの人にとってその言葉が重いのは、それが理由です。




思想無き軽い言葉が氾濫していると、嘆くつもりはありません。

伝える事を意識せず、受ける人の事を考えない「言葉」が氾濫していると嘆く

つもりもありません。
 



感情を切り取るだけの文があってもかまわないと思っています。

その方がより多くの人の共感を得る事があるのも知っています。




私のこの作風は、どうすれば論文や小説にするような密度の濃い内容を、軽く

数分で誰もが読めるように出来るか、を模索して辿り着いたものです。

そして今回の作品は、実は凄く深い物を切り取って描いています。




ただ、「ものを書くとはいったい何だろう」とずっと考えながら書いていました。

「言葉」とはいったい何なんだろう、と悩みながら書いていました。




その考え悩んだ結果は、非常にシンプルなものでした。

私はこれまで通り、思想「思い想像する事」と言葉「伝える事」をあきらめない。

それでいいのだと、今では思っています。




上にご紹介したものの、全ての敵「無関心」を振り向かせる力が

「言葉」にはあると信じて。











 
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2014/02/02 詩 劇:広義の詩的形式の劇 Comment(0)

「天国に降る雪」序詩:あの空の下で

 
 
 

 

 
お願い神様 

この涙を止めてください 

お願い神様 

この涙を拭ってください 




このままだと見えないの 

あなたもきっと見てる 

あの空を 




今はもう夢でしか逢えない 

あなたもきっと見てる 

あの空を 




私は誰、何なの 

何の為に産まれてきたの 

ねえ答えて 

私を独りにしないで 




夢を見ていた 

まだ幼い頃の夢を 

あなたならきっと 

その答えを知っている 




私は誰 

何なの 

いったい何の為に産まれてきたの 




お願い神様 

この涙を止めてください 

この涙を拭ってください 




このままだと見えないの 

もう夢でしか逢えない 

あなたもきっと見てる 

あの空を 




過去に横たわる

暗い闇はついに何も




答えてはくれなかった






人類の歴史上

全ての文明と

その秩序は




時至ればその遺産を

とって変わる

新しい文明と

秩序に残しつつ




自らは崩れ去ってゆく




しかしたとえ国が滅びようとも

それでもなお残された人々は

自らが守らねばならぬ物の為に

生き続けなければならない




時に運命は

余りにも残酷で

多くの死と恐怖に溺れ

理不尽な力に蹂躙され




人の持つ悪意と欲望が

ささやかな過去も現在も

そして未来すら奪っていく




挫けて泣く人もいた

抗い戦う人もいた

戦わなければ

生きることを許されない




産まれ来る子供達が

殺されず大人になり

罪無き人々が理由無く

殺されない世界を




ただそれだけの為に

戦わなければならなかった

抗わなければならなかった




そうした人々の営みが

やがて新たなる文明と

秩序を造り上げ




その積み重ねが

歴史という

壮大な物語となって

後世の人々に語り継がれる




長き絶望の終り

それは新たなる希望への

始まりだと信じたい






彼女は夢を見ていた

まだ幼い頃の夢を




私は誰

何なの

いったい何の為に産まれてきたの




彼女の過去に横たわる

暗い闇は何も答えはしない

だが長き絶望の悪夢は

確実に終幕へと向かっていた






ねえ答えて

私を独りにしないで














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2014/01/25 散文詩:連作で小説に近い詩 Comment(0)

まじめなあとがき。「オルフェ」「悠久」「20ドル」


「オルフェウスの竪琴」

 このお話を初めて読んだとき、サヤキはまだ小学生でした。

 その時に読んだ内容では、最後、妻を失った主人公は絶望で川に

身を投げたか、落ちた、だったと記憶しています。
 

 きっと、子供が読む用に書かれた内容だったのでしょうね。




 オルフェウスが宗教をしていたとか、実は殺されたとかいうのは

大人になってから知りました。少しがっかりしたのを覚えています。

 それでも、琴座の美しい思い出は今も色褪せていません。




「悠久の中の一瞬」

 この遺跡は、愛媛県に実在します。司書で教員免許を持つ友人と

実際に訪ねてみました。

 こじんまりとした展示館と雄大な景色が印象的でした。ちなみに

詩に付けている写真は、近隣をサヤキが撮影したものです。




 初期の頃の土器は、現在で言う「野焼き」というもので、窯で焼く

わけではなかったので温度が低く、焼き固まらずモロいものでした。

新しい土器より縄文土器のほうが分厚いのはその為です。




 同時期の世界文明となると、巨石文明となりますが、おそらく加工

しにくい石より、加工の容易な木の文明がその前にあった事が予想

出来るでしょう。ただし……




 残念な事に、モロい焼物と木の創造物は後世に残りにくいのです。

 だからこそ、この遺跡には価値があるのですね。




「20ドルの微笑み」

 歴史を語るのに、実は経済の変遷……つまりお金の流れですね。

それを追うと戦争の歴史が見えてくる、という外国の歴史学教授の

本を読んだことがあります。




 思想やイデオロギー、宗教、理想等で戦争が起こるという夢物語を

完全に壊してくれた本でした。

 もちろん、独立や付随する支配欲、政治的野心など例外はあります。




 経済の変遷で戦争の歴史を紐解くことが出来るとすると、避けて

通れないのは、まっとうな商売、そして兵器産業と麻薬など。

 残念な事に、この2つが国を支える歴史的事例は少なくありません。




 この詩では、麻薬というあまり取り上げられないものにスポットを

当ててみました。




 戦争と平和というのは大変難しい問題です。

 なぜなら置かれた立場によって、同じ側の人間でも思惑が違うことが

ほとんどだからです。ましてや戦う相手の思惑となると……




 理想だけで戦争は語れないのが、複雑で冷たい現実です。




 ですが、理想が無いと戦争に行くこともできませんし、平和を祈る事

もできません。それがいっそうこの問題をややこしくしています。




 ジョン・レノンは「国境の無い世界を想像してごらん」と歌いました。

 あくまでサヤキの考え方なのですが、国境は必要だと思います。

 そして、国境の向こうに違う価値観を持つ人がいる事を認めない限り

憎しみは無くならないと思います。




 たとえば、日本では悪い事をすれば正直に話すのが美徳でしょう。

 しかし、儒教の国では「身内を守る為に悪い事をする」のが美徳です。

 孔子の教えですね。




 どちらが正しいか、それはここでは問題としません。

 ですがこうなると、お互いの価値観は永久に平行線です。国境の向こう

に違う価値観の人がいる、と認めるしか解決の方法はありません。




 決して自分と同じ考えにはならないと認めるしか。




 そして現代では、その思想のズレに「利得」が付随します。

 国境の無い悲劇、の例として「東トルキスタン」を興味のある方は

検索してみて下さい。彼らは戦い抗うしかありませんでした。




 無責任に「反戦平和」を語れなくなる真実がそこにはあります。




 もちろん、反対意見もあるでしょうし、それも正解だと思います。

 考古学・歴史を学んで、正解は一つでない事を知っています。

 正解はたくさんあるのです。




 そして私は、決して私と同じ考えにならない人がいるのを知っています。

 ただ、この詩に書いたように事実は冷たいかもしれません……
 
 
 
 
お・ま・け

 ここで以前公開した「天使の両翼」には本編があります。

 ……と言ったら、ある方から「双子の続きが読みたい」と言われて

しまいました。




 もちろん、原稿用紙換算1900枚なので、ここで出すと大変な事に

なってしまいます。

 なので、どういう内容の話かわかる程度に、本編から二箇所抜粋して

ここに載せてみますね。




 短いですが、興味のある方はどうぞー。

 ちなみに、「ナシュア」という女性が双子の妹です。

 興味の無い方はどうかスルーお願いします(笑






(1箇所目)
 「あら、お嬢さん。あなた知らないの? 彼の兄の事」
 「メイ!」
 ティルフィングは叫んだがメイは彼に応じる事無く、かまわずナシュアへ向かってまるで世間話のような気軽さで言葉を続けた。
 「いい? お嬢さん、よく聞くのよ……彼のお兄さんは、あの統治システムコンピューターブレイン“ラグ”なのよ」
 「え……えっ!?」
 「彼と彼のお兄さんは、元々同じ一個の細胞から造り出された“人造の人間”だったの」

 ナシュアは驚愕のあまり身動きもせず立ちすくんでいた。自失呆然の彼女にメイはさらに言葉を続ける。
 「……三九九二年に統治コンピュータ“ラグ”のシステムにバージョンアップが施されたわよね。この時、メインの部分にも手が加えられたのだけれど、超伝導以外の部品の伝送処理速度を早める為に、当時の科学者は“生体部品”の流用を決定したわ。そして“バイオチップ”の採用も、ね。DNAをメモリーに利用すると、細胞一個のピコグラムのDNAには三〇億塩基対の記憶容量があるわ。どんな電子デバイスもこれにはかなわない。この“ラグ”のシステム=バージョンアップに、彼のお兄さんは生体材料として使われたのよ」
 「そ、そんな……」

 もはやナシュアには言葉もなかった。メイはティルフィングの方に少し視線を投げかけると、さらに言葉を続ける。
 「……彼はその“ラグ”に生体材料として使われた兄の、いわばサンプルとも言える特別な存在の実験体だったの。メイン部分のバイオデバイス、そしてバイオチップ……ティルフィングのDNAには“ラグ”の生体材料として必要な物は全て人為的に詰め込まれている。そう、彼は“ラグ”と同等の能力を持っていると言って差し支えないわ。しかし……ティルフィングは開発機関の組織を抜け、地球へと逃亡したのよ」





(2箇所目)
 「その通りね、少佐。彼がいればレジスタンスは勝てるわ、必ず、ね」
 「な、ならば……」
 メイは再び凄絶な微笑を彼に見せた。そして、その侮蔑によって飾られた威圧的な表情には少佐の反論を封じ込める力があった。
 「少佐。あなた、彼がなぜ“ティルフィング”って呼ばれているか、知っていて?」
 「い、いえ……」
 メイは鼻で笑った。

 「ふふっ。彼の呼称、“ティルフィング”っていうのは、太古の旧世界に伝えられていた北欧神話で、最高神オーデインの末裔が作らせた伝説の魔剣の名よ」
 「ま、魔剣?」
 「そうよ……当時の伝承によると、その剣を作らせたスアフォルラミという国王は必勝の剣を要求したわ。しかし、それに応じて作られたのは、破滅を呼ぶ呪われた魔剣だった。その剣は絶対の勝利を使用者に与えてくれる……しかし、所有者の望みをかなえた後、やがてその者を破滅へと導いていくのよ。勝利と繁栄の代償として、ね」
 「…………」

 「彼に関わった者は……死ぬわ」
 メイの瞳が鋭く細められた。少佐は驚愕に身を凍りつかせ、何も言葉にする事ができなかった。それを見た彼女は、今度は艶やかに微笑みながら懐から煙草を取り出し、それに火を付けながら言葉を続けた。
 「ちなみに少佐、統治コンピュータシステムの名称“ラグ”とは、ケルトの太陽神の事を意味しているのをご存知だった? ……神の血が作らせた魔剣は、神を殺す事ができるか……」
 メイは視線を窓の外に流れる景色へと遊ばせた。
 「ふふっ……面白いわね。よくぞこの時代に産まれて来たものだわ……」 




いろいろな所に理論破綻があるかもしれませんが、若さゆえの戯言だと許してやって下さい(笑









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2014/01/24 後書き:生まれ出た言葉の為に Comment(0)

20ドルの微笑み(後編)





1970~1980年代にかけて 

パブロ・エスコバル率いる 

コロンビアの複合犯罪組織 

メデジン・カルテルが台頭し 




全世界のコカイン市場を 

この複合犯罪組織が席巻した 




アメリカはこれを壊滅させる為 

国家安全保障局や 

中央情報局を使い 

アメリカ軍を派兵した 




拠点の空爆やミサイル攻撃 

そして各地での 

激しい銃撃戦が繰り広げられた 









彼女はきょとんとした後 

口を片手でふさぎながら 

再び笑い始めてしまった 




「じゃあ私なんかじゃ 

勝てないわね 

奥様だと言うと思ったわ」 




少し寂しげな 

表情を見せながら 

彼は彼女に言った 




「妻も死んだよ 

子供の死に絶望して 

麻薬に逃げちまった」 




その言葉に 

彼女の笑顔も固まった 




「そうだったのですね 

だからあなたは 

たった一人で 

あんなところに 




お金が目的ではなく 

麻薬を憎んでらっしゃるのですね」




彼は無理に

笑顔を作りながら

突然彼女に振り向いて

こう言った




「20ドルだ

こんな危険な事に

巻き込んでるんだ

報酬くらいは頂かないとな」




彼女は呆然として

彼に聞き返した




「20ドルって

たったそれだけで

いいのですか?」




男はニヤリと笑ったが

不思議と憎めない

愛嬌のある表情だった




「ああいいぜ

一杯おごってくれ

20ドルで俺とあんた

二杯分だな」




彼女は再び

吹き出してしまった




「一緒に飲もうって事ね

不思議だわ

私こういう状況なのに

なぜか少しも怖くない」




男はすねたような声で

彼女の言葉に応じる




「勘違いするなよ

無料奉仕ってのは

俺が二番目に嫌いな

言葉だからなのさ」




彼女は笑顔で聞いた




「二番目って

じゃあ一番は何なんですか?」




彼は泣きそうな

表情を作って

彼女に見せながら

こう答えた




「ほうれんそう、さ

よく残して娘に叱られた」




しかし




再び銃声が

彼ら二人の会話を

強制的に中断させた




だが今回の銃弾は

少し先の石ではなく

正確に彼女の胸を貫いていた









クラック・コカインは

量のかさ増し目的や

らしく見せかける目的で




有毒な不純物が

混ぜられる事がある

マカダミアナッツや

ろうそくの蝋などである




アメリカ司法当局は

おとり捜査に偽物として

マカダミアナッツを

粉末にしたものを使っていた




これらが発する有毒ガスも

麻薬本来の体調異変、禁断症状

心神喪失や幻覚などに加え

様々な原因で体と精神を蝕んでいく









男は自分の

判断力の無さを呪った

金を取り戻す人間が

雇ったのはチンピラではなく




プロだったのだ




彼は追手に向かって

二度引き金を引いた

そして間髪入れず

追手の懐に飛び込んだ




一動作で懐から

抜かれたナイフは

追手のわき腹へ吸い込まれ

あばらに邪魔されず心臓に達した




追手は驚愕に

顔面を引きつらせながら

彼に言った




「その軍隊の身のこなし

お前も

プロだったのか……」




そんな追手の呪詛の声に

耳も貸さず彼は

急いで倒れている

彼女のそばに駆け寄った




「おいしっかりしろ

大丈夫か?」




彼女は

弱々しく微笑んだ




「お願いがあるの

あなたならきっと

叶えてくれる……」




彼は慌てて叫んだ




「わかってる

こいつであんたの子供の

薬を買えばいいんだな

わかったからもうしゃべるな」




自分の服を破って

止血を試みる彼を

笑顔のまま眺めながら

彼女は言葉を続ける




「確信してるわ私

子供は間違いなく助かる

あなたに会えて良かった




ありがとう

あなた私が会った中で

二番目にいい男よ」




止血は無駄だと

悟ってしまった彼は

それでも無理に笑顔を作り

彼女に聞いた




「ほう

俺よりいい男か

じゃあ一番は

誰だったんだい?」




彼女は無邪気に微笑んだ

その姿が最後だった




「決まってるわ

私の息子よ」









1980年代には

コカインの供給量が増大




その路上価格が下がると

貧困層や若者にも広がり

深刻な社会問題となった









彼は死なせてしまった彼女の

墓標の前に立っていた




「あんたが持って逃げた金は

メデジン・カルテルがらみの

金だったみたいだぜ




女は疑われにくいから

本人に何も知らされず

良く運び屋に利用される

どうりで凄い額だと思った




ほらよ

あんたの子供の医療費と

薬代を差っ引いた残金の

20ドルで買ったウィスキーだ」




彼は封をあけ

ウィスキーを彼女の

墓標へと注いだ




そして男は最後に

彼女の墓標に

こんな言葉を残して

去っていった




「あんたの持ってた金

ちゃんと約束は守ったが……




勘違いするなよ

そんな辛気臭え金で

飯なんぞ食っちまったら

寝覚めが悪いからな




それだけだ」












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2014/01/24 自由詩:短編を様々な作風で Comment(0)

20ドルの微笑み(前編)

 




 
 

19世紀には既に 


メキシコとアメリカの国境を 

挟んだ密輸は日常だった 




民衆は国境内外で 

値段が異なる物を売り 

僅かな収入を得ていた 




1930年代には禁酒法撤廃をきっかけに 

ヘロインやマリファナが需要を増し 

運び込まれるようになった 
 
 





 
 
「俺は強盗だ 

金目の物全て出すなら 

命だけは 

見逃してやってもいいぜ」 




寂れた街道の途中で 

呼び止めた女性に 

男は銃口を突き付けた 

彼女は震える声で言った 




「子供の命を救うには 

お金がどうしても 

必要なんです 

見逃してください」 




男の目が 

薄く細められた 




「こども……

だと?」 




その場所に銃声は響かず 

間も無く陽が落ちて 

あたりは暗闇と 

静寂に包まれていった 









1850年代にはアメリカで 

アヘン中毒は深刻な 

社会問題となった 




解決策として

当時は作用が弱く

中毒性が無いと

見られていた薬物




モルヒネがアヘン中毒者に与えられた




モルヒネ中毒はすぐに

アヘン中毒よりもさらに

大きく深刻な問題となった









「貴方は強盗だと

確かそう言いましたよね

どうして私のお金を

奪わないのですか?」




彼女のその言葉に

男はそっけなく

無感動に応じた




「いい男だからさ俺は

ここは麻薬の売人が

国境を越えるルートだ

食う為に女も運び屋をやってる




あんたみたいな女もな




国境の向こうじゃ

コカインの相場が暴落

ヘロインが売れなくて

だぶついてるのさ




売人は国境を越えて

だぶついたヘロインを

向こう側で捌こうって

そういう寸法だ




言うなれば俺は

麻薬の蔓延を防ぐ

正義の味方ってやつさ

無論実益も兼ねるがね」




彼女は男をじっと見つめた

そんな彼女に気圧されて

男は慌てて言葉を続けた




「勘違いするなよ

そんな辛気臭え金で

飯なんぞ食っちまったら

寝覚めが悪いからな




それだけだ」




彼女はついに吹き出して

笑ってしまった

ひとしきり笑った後に

彼女はさらに男に尋ねた




「お金はともかく

奪った麻薬は

どうされているのですか?」




男は身を隠している

岩陰の石にもたれかかり

つまらなそうに応じた




「川に捨ててるさ

食えるものじゃ

ねえからな




それよりお前さん

本当に子供を救いてえなら

今日はここで眠ることだな




このあたりには

俺みたいなのが

うじゃうじゃいるぜ




そいつらはためらわず

引き金を引くぜ

そしてあんたの金は子供に

永久に届かない」




脅すつもりで男は

そう言ったのだが

なぜか女性に怯んだ

様子は無かった




「不思議な人ですね

貴方はどうして

その銃の引き金を

引かなかったのですか?」




男はその言葉に

目を閉じて答えた




「俺には娘がいた

もう死んじまったがな」




彼女は突然理解した

なぜ彼が自分を

殺さなかったのかを









アヘンと同じように

モルヒネの患者には

また別の中毒性がない薬物

ヘロインが与えられた




だがそれはモルヒネよりも

さらに中毒性が高い薬物だった









だが二人の会話は

そこで突然の中断を

余儀なくされた




乾いた銃声が辺りに轟き

二人が座る場所の

わずか先の石を

砕いたからである




彼女は悲痛な声で

彼に向かって叫んだ




「私を追ってきたのだわ

逃げてください

あの人たちの目的は

私だけなのです




あなたを

あなたを巻き込むわけには……」




彼女の言葉は

そこで途切れてしまった




彼が彼女の手を引いて

森の奥へと

走り始めたからである









コカインの性質が

把握されてなかった時代




依存性は無いと考えられた為

他の薬物依存症の患者に対し

コカインを処方し

治療する者もいた




著名な心理学者フロイトも

他者と自身にコカインを処方し

重大な依存症を引き起こした









しばらく走った後

二人は大木の根元の

小さな窪みに身を隠した




息を切らしている彼女に

煙草に火を付けながら

男は話しかけた




「こんなひでえ目に

あわされてるんだ

理由を聞く権利ぐらい

俺にはあると思うんだがね」




彼女は目に涙を溜め

彼の言葉に答えた




「私がどれだけ働いても

子供を救うお金を

稼ぐのに何年も何年も

かかってしまいます




商品の取引で目の前に

目の前にお金があったの

これが子供を救える

そう思ったら




気が付いたら私は

お金を持って

国境に走ってた……」




彼は煙草の煙を

くゆらせながら

面白くも無さそうに笑った




「魔が差したってとこか

おそらくあんたの良識は

有給休暇をとって明後日の

方向へ旅行中だったんだな




どうやら奴ら

金を取り戻すために

ヤバい連中を

雇ったみたいだぜ




まったく

稼ぎの悪い亭主を持つと

大変だねえ女ってヤツは」




その言葉に彼女は

涙に光る瞳で

笑みを作りながら言った




「夫はいません

あの国境の向こうでは誰もが

自分一人が食べるだけで

精一杯なのですから」




彼は吸い終えた煙草を

闇の中へと投げ捨てた
 
 
 
 
「そんな話には興味ないね

身の上話なんざ俺の

腹を満たしてはくれねえ




どうでもいいがあんた

相当な金額を

ふんだくったみてえだな

どこにそんな金持ってるんだ?」




彼女は力なく笑って答えた




「切手にかえました

到底持てる重さでは

なかったので……」




彼は愛用の銃に

弾を込めながら

感嘆の声をあげた




「ほう……なるほど

おりこうさんだな

俺がそう思ったのは

あんたで二人目だ」




彼女は涙を

拭いながら彼に聞いた




「じゃあ一人目は

誰だったの?」




彼は唇の端を

僅かに吊り上げて

片目をつぶりながら

こう答えた




「決まってる

死んだ娘だ」













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2014/01/23 自由詩:短編を様々な作風で Comment(0)

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「天国に降る雪」

「想いは流れる」(短編)

「いつだって僕の」

「サン・ミシェルの少女」

「想いは流れる」(長編)

「粉雪と涙」

「君の歌が聞こえる」

「最後の言葉」

「天使の両翼」

「君の歌が聞こえる」(後書き)

「最後に見た景色」

「想いは流れる」(後書き)


「君の歌が聞こえる」は初めて

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「君の歌が聞こえる」9970人/1位

「3年待ってね」5478人/1位

「アルテミスの弓」6171人/1位

「サン.ミシェルの少女」5377人/1位

「珍しいペット」5365人/1位

「君の歌が聞こえる」5438人/2位

「夢も見ずに」5407人/2位

「消えていく私」5423人/2位

「戦争と平和と愛について」5356人/4位

「冥府に住む聖者」5362人/5位

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「夢も見ずに」

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