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2024/05/02

完全に勝つ人




「無理だな、お前達では 

絶対俺に勝てはしない 

無駄な事はやめておけ」 




こんな台詞で助けるのが 

キレイなお姉さんなら 

言う事はなかったのだが 




「ありがとうね本当に 

あなたは命の恩人よ」 




そう言って目の前で 

泣いて俺に礼を言うのは 

愛嬌のあるかわいらしい 

おばあちゃんだった 




俺は自慢だが学生時代 

ずっと空手をやっていた 

腕もかなりのものだと 

自負していいと思ってる 




しかし真に残念ながら 

俺の今の戦場はこの社会 

しがないサラリーマンの 

下っ端の営業に過ぎない 




過去の輝かしい栄光とやらは 

俺の営業成績に何の貢献も 

してはくれなかった 




せいぜい腹一杯になるまで 

蟻のように働くしかない 




だが今日は少しだけ

いつもの俺とは違う

大きな見積があるのだ

こいつはかなりでかい




プレゼンの資料も完璧

昨日も夜遅くまで見直し

細部のチェックも怠り無い




前日に見積提出先の街に

到着しホテルで一泊の間

自分でも感動する出来の

素晴らしい資料になった




これなら初めて会う顧客も

大満足間違いなしだと思う

翌日、寝坊さえしなければ




慌ててスーツに着替え

宿泊先から取引先へ

俺は全速力で走った




……で、その途中に

このおばあちゃんが

何者かに襲われてるのを

偶然見てしまったわけだ




見積を提出する相手は

もうすぐそこのビルに

いるというのに俺は

完全に遅刻が確定した




でも目の前で泣いている

おばあちゃんを見てると

恨む気にはなれなかった




「命の恩人なんて大袈裟だよ

ほらおばあちゃん

大丈夫かい

立てるか?」




俺はそう言って

手を差し伸べたが

おばあちゃんの手は

俺の手に届かなかった




腰を抜かしているようだ




俺はおばあちゃんを背負って

おばあちゃんが指差す方向へ

力無く歩く事にしたのだった




「本当にごめんなさいね

何か用事があったのじゃ

ないかしらひょっとして」




おばあちゃんは気を使って

そう言ってくれたが俺は

失望を必死の努力で隠し

努めて明るくこう答えた




「いいさ、どうせ可能性の低い

成功するかどうかわからない

不確定の仕事の話だったから




それよりおばあちゃんこそ

口から血が出てるじゃないか

ひどい事する奴らだな、全く

何で警察を呼ばなかったんだ」




おばあちゃんは

震える細い声で

悲しそうに答えた




「あれは私の親戚なのよ」




絶句した俺に彼女は

さらに言葉を続けた




「このあたりは昔は

ずっと向こうまで

田んぼだけだった




私は幼い頃貧しくてね

その辺に生えてる物で

食べられる植物を煮て

飢えを満たしていたわ




お金が無ければ

幸せになれない




若い頃はそう信じて

必死になって稼いだ

田んぼを売った金で

事業を起こして、ね




私はただ幸せに

なりたかっただけなのに




いつの間にか私の財産を

狙う親族間の醜い争いに

巻き込まれてしまったの




人生の最後で私は

こんなにも不幸に

なってしまったわ」




再びおばあちゃんは

俺の背中で泣き始めた

なぐさめる方法なんて

わからないまま俺は言った




「俺さ、実は見捨てて行こうと

最初は思ってたんだよね

でも今はもう後悔して無いよ



おばあちゃんの言う通りだ

さっきまでの俺は目の前に

ぶら下げられたニンジンに

興奮して走っていたんだ




あるかどうかもわからない

成功と金を期待してね




そうだよね、人間食べて

友人がいて、家族がいて

毎日生きていけるだけで

それだけでもいいんだな




実は本当の幸せなんて

もう既に手に入れて

いるかもしれないのに

それにも気付かずにさ




醜い男だよね、俺も」




おばあちゃんは笑いながら

こんな事を俺に言った




「あらそんな事は無いわ

貴方とってもいい男よ

私が50年若かったら

放っておかないけどね」




俺は唇の端を

引きつらせながら

無理やり笑顔を作って答えた




「あ、ありがとう

気持ちだけ頂いておくよ」




すぐ先の街角を左に

曲がったところで

おばあちゃんは

指差してこう言った




あのビルよ私の会社

取引先の営業の子が

もう来てるはずだし

急いで戻らないとね
 
 
 
 
……俺が見積を出す会社だった












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2014/02/18 自由詩:短編を様々な作風で Comment(0)

完全に知る人




「俺ね、フラれたんだ 

昨日相談した総務の娘に」 








私はこのバーが好き 

狭いけど落ち着いた 

雰囲気とジャズの調べ 




普段ジャズなんて 

聞かない私だけど 




センスのあるレトロな 

調度品が飾られていて 

明る過ぎないライトに 

柔らかく浮かび上がる 




窓の外には夜の街並 

葉を落とし寒々とした 

木々にライトアップの 

眩しい光の花が咲き誇る 




窓の外の街の夜景が 

遠く地平線の彼方で 

天の星々と溶け合う 




素敵な夜になりそうだ 

目の前の暗雲のように 

落ち込んだ同僚の彼が 

いなければの話だけど 




彼は会社の研修で

知り合って以来の

4年越しの腐れ縁




決してモテないわけじゃ

ないのだけれどなぜだか

損ばかりする性格なのは




私だけが知ってる秘密




そして彼はお酒の

力を借りた時だけは

ほんの少し饒舌になる




「俺ね、フラれたんだ

昨日相談した総務の娘に」




そんな彼の告白を

美味しくもない

ツマミにしながら

私はさらにお酒を飲む




「で、その代替品として

私を誘ったわけなんだ

失礼な男だわ貴方って」




私は、とりあえずそんな

冷たい言葉を彼に返した

彼もそこは理解している

少し気まずそうに笑った




「だってそういう時の

女性の気持ちなんて

俺って鈍感だからさ

わからないんだよね
 
 
相談出来そうな人って

君しかいないからさ俺」




本当に彼は不器用な人だ

いつだってこんな感じで

損な役ばかりをしている




彼は少し落ち込んでいたようだ




それでも気を取り直し

無理に笑顔を作って

彼は私に話しかける




「だから今日は付き合って

飲みたい気分なんだよね」




その寂しげな笑みの

理由を私は知ってる




昨日、彼は私に聞いた

こういう時の女性って

どんな気持ちなのって

実にヘタな三文芝居で




本当に彼は不器用な人だ

いつだってこんな感じで

損な役ばかりをしている




たぶん彼は噂になって

彼女を傷付けない様に

自分がフラれたことに

したいのだろうと思う




彼は全く知らないけど

実は私は総務の娘にも

彼の相談を受けていた

昨日告白をしたらしい




フラれたのは彼女だった




好きな人がいるから、と

彼女の告白を断ったのは

本当は目の前の彼の方だ




好きな人がいるから、と……




そしてすぐ翌日に

私は彼に誘われた

いいわよ奢りなら

私はそう答えてた




私はこのバーが好き

狭いけど落ち着いた

雰囲気とジャズの調べ




普段ジャズなんて

聞かない私だけど




素敵な夜になりそうだ











写真提供:総合素材サイト「ソザイング」様
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2014/02/17 自由詩:短編を様々な作風で Comment(0)

完全に失う人

 





 
 

私は記憶を失った 


当然の報いだった 

今は後悔している 




私は墓泥棒だ 

獲物を手にし 

帰路の途中で 

事故にあった 




それより前の事が 

全く思い出せない 

気が付けば私は 

病院で寝ていたのだ 




事故時の私の所持品から 

私が誰なのかは理解した 

そう、理解出来ただけで 

思い出したわけではない 




そうその事故時の

所持品が私の事を

私だと説明して

いるに過ぎない




しかし私はその時から 

呪いの深き闇に囚われた 




記憶を失うのは 

私だけではなく 

信じ難いことに 

周りの人間まで 




記憶を失うのだ 




私は私を必死に調べた 

残る唯一の手がかりは 

事故前墓荒らしをして 

帰路に着く最後の記憶 




私はその最後の記憶 

それ以外を全て失った 

あの事故が原因だった 

それだけは覚えている 




だがなぜ私の知己の 

人間までもが記憶を 

次々と失っていくのか 




これが墓を暴く者への 

呪いだとでもいうのか 

全く馬鹿馬鹿しい話だ 




私は退院したが 

こんな状態のまま 

全うな仕事など 

出来るわけも無く 




今再びこうして

墓を掘っている




このあたりには

裕福な家庭や

貴族の家が多く




生前大事にしていた

装飾品などを一緒に

棺の中に入れたまま

埋葬する風習がある




今、掘っている墓は

刻んだ墓石の文字が

擦り切れて読めぬ程

随分古いものだった




だが掘っている場所の

土が余りにも軟らかい

つまり、つい最近に一度

荒らされた事がある墓だ




元に埋め戻されて

まだそれ程時間が

経っていないのだ




恐らくこの墓には

もう既にお宝など

残ってないだろう




私はそれでも

なお一心不乱に

ただ掘り続けた

正気を失っていた




私に一体何が起こったのか

なぜ私を訪ね来る人は突然

知らない、何もわからない

覚えてないと言い出すのか




その答えは

目の前にあった

墓から掘り出された

死体を収める棺には






私の名前が彫られていた













写真提供:GATAG 著者:Bash Linx
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2014/02/17 自由詩:短編を様々な作風で Comment(2)

「サン・ミシェルの少女」一幕:あとがき



 実在した人物の歴史ものを詩小説に、という珍しい事に挑戦しました。

 そしてこの作風で書く利点が大きい事に気付きました。これなら本一冊分の

ボリュームを数分で読むことが出来る、歴史が誰にでも読み易くなる、と。




 散文詩的な詩劇ですが、これだけ簡単に読める歴史ものはたぶん、今まで見た事無い

のではと思います。あったらすみません……。




 さて内容ですが、この歴史をご存知の方は「え、ジャネットって間違ってない?」と

思われる人もいらっしゃると思います。

 もちろん、この物語は超有名なあの人のお話です。




 ところが実は、あの名前で主人公の少女が呼ばれるようになるのは、王太子軍の先頭に

立つようになってからなので、ずっと後の事なのです。




 しかも生きているうちに下の名前、姓で呼ばれた事もありませんでした。

 下の名前 D'arc は、後世の人が貴族っぽいという事で付け足したようです。

 実際には、中世の農民に姓はありませんでした。良くある話なのですが……
 
 
 
 
 今回は、1幕目という事で王太子に会うまでのエピソードを綴ってみました。

 歴史書でも史料でもないので、細かい部分は物語として楽しめるようにしました。




 さすがにアメリカの昔の、同じ題材を扱った映画のように「敵将に恋をする」など

という破天荒な演出はしませんでしたが(笑

 実際にあった事柄をうまく盛り込めたのではないかなと思います。




 私が司書で教員免許を持つ友人に、一番最初の最初に教えたのが

「歴史学とは記憶を競うゲームではなく、物語を読み解く事だ」でした。




 もちろん、学校では「試験のための勉強」として歴史を習うので、歴史に拒絶反応を

示す方の多くは「記憶を競うゲーム」のイメージが強いのだと思われます。




 でも何年何月に何があった、と覚えていくだけの単純作業を延々と繰り返すより

「ジャンヌ・ダルクは本当は泣き虫だった」

の方が、歴史に対してどんどん楽しいイメージが沸いて、




ずっと素敵だとは思いませんか?








写真提供:GATAG 画家:ヤコブ・マリス
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2014/02/16 詩 劇:広義の詩的形式の劇 Comment(0)

その向こうに見たもの




どうやら私は 

助かったらしい 

それにしても 

信じ難い体験だった 




その館の中には既に 

命あるものは無かった 




私は少しばかり 

それに気付くのが 

遅かったようだ 




私の腕はまだ 

血を流している 

致命傷ではないが 

刺すように痛む 




何が起こったのか説明が出来ない 




ただ、見たものを 

そのまま言えば 

あの館の中に 

生きている者は存在せず 




訪れた私を 

出迎えたのは 

全て死者であった 

ということだけだ 




そしてその死者たちは 

何も知らず奥へ進んだ私に 

次々と襲い掛かってきた 




あまりの恐怖に 

そこからは 

私の記憶は 

混濁している 




ただ生き延びるだけに必死で 

どこをどう逃げたかさえ 

全く思い出せないのだ 




とにかく一刻も 

早く館の外へ 




それだけが 

あの呪われた場所での 

私の唯一の望みだったのだから 




次々と襲い掛かる

その不気味で醜悪な存在

私は出口に近い

ドアへ走ったが




もはやそこも

その存在が塞いでいた




私は木枠の窓を破り

庭へ出ようとした




しかしその木枠の窓の向こうにも

その禍々しい姿の存在が




その赤黒い爪を

私の喉元に突き立てようと

待ち構えていた




他に出口は無いか

必死で探した




私は怪我を負ったが

ようやく裏口から庭に

そして館の外へ脱出に成功した




私は痛む腕の出血を

もう一度確認し

そして気付いてしまった




私が破って

逃げようとした

木枠の窓は




窓ではなく鏡だったのだ











写真提供:GATAG 著作者:George Hodan
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2014/02/09 自由詩:短編を様々な作風で Comment(0)

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「3年待ってね」

「天国に降る雪」

「想いは流れる」(短編)

「いつだって僕の」

「サン・ミシェルの少女」

「想いは流れる」(長編)

「粉雪と涙」

「君の歌が聞こえる」

「最後の言葉」

「天使の両翼」

「君の歌が聞こえる」(後書き)

「最後に見た景色」

「想いは流れる」(後書き)


「君の歌が聞こえる」は初めて

ブログ部門でも評価頂きました。
 
 

注目記事全国ランキング上位作品

「君の歌が聞こえる」9970人/1位

「3年待ってね」5478人/1位

「アルテミスの弓」6171人/1位

「サン.ミシェルの少女」5377人/1位

「珍しいペット」5365人/1位

「君の歌が聞こえる」5438人/2位

「夢も見ずに」5407人/2位

「消えていく私」5423人/2位

「戦争と平和と愛について」5356人/4位

「冥府に住む聖者」5362人/5位

「天国に降る雪」5351人/5位

「悠久の中の一瞬」5339人/5位

「欠片の記憶」5422人/9位

「消えていく世界の片隅で」6203人/9位

 
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「オルフェウスの竪琴」

「その向こうに見たもの」

「無理に笑う人」

「夢も見ずに」

「四月になれば」



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