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2024/05/02

「想いは流れる」第十五詩:2月23日、くもりのち雨





2月23日、くもりのち雨 




今日も彼は来てくれた 

この時間はいつしか 

私にとってこの人生で 




最高に幸せで 

最高に残酷な 

時間となった 




彼に内緒に 

している事が 

ひとつだけある 




もう私はいつ死んでも 

おかしくない体だって事 




言わなければ 

ならなかった 

このままでいい 

はずがなかった 




でも言えなかった 




彼が笑う 

ちょっとだけ 

拗ねて怒って 

また笑う 




彼の前でこれ以上 

泣かないようにする 

自信がもう無かった 




言えるはずがないよ…… 










2月27日、くもり 




私は今日死んでいたはずだった 




以前お医者さんの

話を偶然聞いた時 


私の命は長くても 

今日までだろうと 




そう言われていた 




私はまだ生きていた 

ここから先はきっと

神様がくれた時間だ




私はこの時間を

大切な人の為に

使おうと決めた




私はお父さんに

3月から病院に

入院したいと

お願いをした




そして彼に二度と

会わない決心をした




私が苦しいのはいい

もうすぐ死がこの

苦しみから解放して

くれるだろうから




だけど彼を絶対に

巻き込んではいけない




私が入院して

会わなくなって

彼が自然と私を

忘れてくれれば




それが一番いいと思う




単なる同情で私の話を

聞いていた最初の彼と

私の話に泣いてくれた

今の彼を思い出したら




自惚れでも何でもなく

彼の気持ちが私の方へ

徐々に近付いていると




いくら鈍感で世間知らずの

私にだって痛いほどわかる




だから私はこの

残された時間で




せめて彼の幸せを祈りたい










2月28日、晴れ




たくさんたくさん

彼が去って泣いた

今も泣きながら

日記を書いている




ついに彼に

もう来ないで、と言った




できるだけ冷たく言った

もう二度と来ないように

泣いてしまいそうだった

でも良く頑張れたと思う




彼は少し困った様な

表情で私を見ていた

きっと明日も来るだろう

でももう私は家にいない




明日から私は入院だから




裏切りだと

思われても

かまわない




そのあなたの眩しい

笑顔が涙に曇らない

幸せな夢を見ながら




私は眠りたい




神様どうかお願いです

彼がもう大丈夫だって

私が確認できるまでは




もう少しだけ命を下さい











写真提供:GATAG PublicDomainPictures(著作権放棄)

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2014/03/05 詩 劇:広義の詩的形式の劇 Comment(0)

「想いは流れる」第十四詩:2月9日、雨





2月9日、雨




昨日の夜から何回か 

軽い発作が続いた 




ついに私は最後の発作で 

病院に運ばれてしまった 

両親がそのまま入院の 

手続きをしようとした 




私は泣いてそれだけは嫌だと言った 




お父さんは納得せず 

私の主治医の先生に 

相談をすると言った 




主治医の先生は両親に 

彼女の望むようにして 

あげて下さいと言った 




もう病院で出来る事は 

何も無いのだと悟った 










2月11日、くもり時々晴れ 




彼は毎日来てくれる 

物好きねって言ったら 

どうもそうみたいだ 

と言って笑っていた 




かわいくない私 




恥ずかしくて自分の 

気持ちを知られたく 

ないという本音も 

正直あったのだけど 




これ以上彼に対して好意を 

持ってしまうのが怖かった 




もちろん私には 

友達がいなかった 

彼が唯一の友達だ 




だから私はついつい 

明日は何時に来るのとか 

当番なんかさぼって早く 

来いなんて言ってしまう 




約束がないと私は 

不安で仕方が無かった 

そんな私にいつだって 

彼は微笑んで頷いてた 




底抜けにお人好しで

驚くほど優しい彼




だからこそ私は

この膨らむ気持ちを

認めるわけにはいかない




生きたいと望んでしまうから










2月15日、晴れ




今私は凄く後悔している

本当につまらない事を

彼に言ってしまった




実は私は知っている

彼に友人はたくさん

いるということを




毎日この窓から

友人達に囲まれて

通学しているところを

私は見ていたのだから




なのに彼は毎日

友人達より私を

優先してここに

来てくれるのだ




嬉しくてあの時の私は

どうかしていたんだ

そうとしか思えない




私がずっと昔親に

わがままを言って

海に連れて行って

もらおうとしたら




車の中で発作を起こして

命を落としそうになった




その話を彼に

してしまったのだ

しなければ良かったのに




彼は泣いていた




私の話を聞いた直後

彼は泣いていたのだ

私はそれを見てもう

全部認めてしまった




彼を失いたくないこの気持ちを




そしてもうひとつ

気付いてしまった

きっと私が死んだら彼に

取り返しのつかない程の




大きな心の傷を残してしまうと




神様は優しくて残酷だ

人生の最後で私に幸せと

苦痛を与えてくれたのだ




彼の泣いてる姿なんて

もう二度と見たくなかった

でもいったいどうすればいいのか




私にはわからなかった










2月18日、晴れ




また発作が私を襲った

苦しい間ずっと




彼のことを思っていた

また会いたいと願った

それだけが全てだった




今はもう平気

また明日私は

彼に会えるんだ




だけど発作がおさまって

冷静になって考えた

彼の泣いてる姿なんて

もう二度と見たくなかった




この気持ちが今より

もっと強くなれば

彼も私もさらにこの先

つらくなるに違いない




本当は私は

もう彼には




会わない方がいいかもしれない











写真提供:GATAG 著作者:Bergadder(著作権放棄)

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2014/03/05 散文詩:連作で小説に近い詩 Comment(0)

「想いは流れる」第十三詩:1月29日、くもり





1月29日、くもり 




大変な事になってしまった 

今日の日記は何から書けば 

良いのか、全くわからない 




今日のパーティで初めて 

あの男の子を間近で見た 




想像よりずっと 

優しい笑顔だった 

しかも真っ直ぐに 

私を見ているのだ 




当たり前なのだけど 




私はどうしても緊張で 

うまく話せなかった 




舞い上がってしまって 

うまく笑顔も作れない 

視線も合わせられない 




きっと無愛想な女だと 

思われたに違いない 




その上調子に乗って 

自分の病気の事まで 

全部話してしまった 




無愛想な表情を 

したまま全部だ 

もう最悪だった 




これはもう駄目かなと 

落ち込んでる私に彼は 




また来るからと 

約束してくれた 




すごくつまらなくて 

すごく暗い話なのに 

彼は真剣な眼差しで 

ずっと聞いてくれた 




「また来るよ、約束する」 




確かにそう言った 

本当にまた 

来てくれるかな 

今日は私はもう 




眠れそうもなかった 










2月3日、晴れ 




お菓子の準備も大丈夫 

切らしてた紅茶も補充 

今日はきっと完璧だ 




買い物をお願いした

お母さんがニヤニヤと

いやらしく笑ってたけど




彼と何を話したかなんて

全然覚えていなかった




彼を待っている

時間はとても長くて

彼と話している時間は

あっという間だったから




彼はあれから

毎日来てくれた




彼がどういうつもりで

毎日私を訪ねてくるのか

それが凄く気になっていた




同情だろうか

気紛れだろうか




お母さんが私に

男の心をつかむには

男の胃袋をつかむのが

一番だと教えてくれた




何言ってんのもうって

ごまかしてはおいたけど

確かに試す価値はありそうだ




私はひそかに

作ってる菓子と

お茶に向かって

手を握りしめて




少しだけ気合を入れてみた










2月5日、雨




今日の病院の検査は

あまり良くなかった




これより悪い結果なんて

今までに数え切れない程

あったにもかかわらず




私は怖くて仕方がなかった




夕方に彼の顔を見て

その気持ちは

確信に変わった




自分の体の事は

よく知っていたから




正直諦めみたいな感じで

今までは何の感情もなく

訪れる毎日をただ淡々と

生きてただけだったけど




私は死ぬのが怖くなっていた











写真提供:写真素材「足成」様 ※モデルリリース取得済み

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2014/03/04 散文詩:連作で小説に近い詩 Comment(0)

「想いは流れる」第十二詩:1月15日、晴れ





一人の少年が 

誰もいなくなった世界で 

今もずっと立ち続けています 




でも男の子はついに 

教えてもらえませんでした 

やがて彼女は亡くなって 

もう家には誰もいません 




彼女は自分の 

悲しい気持ちを 

男の子に感じて 

もらいたくなくて 




死について教えなかったのです 




一人の少年が 

誰もいなくなった世界で 

今もずっと立ち続けています 




今もずっと 















1月15日、晴れ 




今日はちょっとだけ 

いい事があった 




まだ寝てるのに 

お父さんがまた勝手に 

私の部屋に入ってきた 




文句を言う私を無視して 

お父さんは窓のカーテンを 

開けながらこんな事を言う 




「あれ、あそこにいるのは

私の仕事の知り合いの

息子さんじゃないか……」 




通学の途中みたいだ 

決してかっこいい 

わけじゃなかったけど 




目のキレイな男の子だった 








1月18日、雨 




今日は傘のせいで 

あの男の子の顔が 

見れなかった 




ちょっと残念 




些細な事だけど 

窓の外に少しだけ 

楽しみを見つけたのに 









1月21日、くもり 




窓の外にはいつもの時間に 

あの男の子がこの道を通る 




学校の通学路なのだろう 

友達とはしゃぎながら 

やがてその先の交差点を 

左に曲がって行ってしまう 




雨が降らなくて 

本当に良かった 

傘であの子の顔が 

見えなくなるから 
 
 
 
 
 
 
 


1月24日、くもり 




今日はあまり 

体調が良くない 




椅子に座るだけで 

けっこう辛いので 

明日じっくり書こう 




いい事がたくさんあったのだ 
 
 
 
 
 
 
 
 
1月27日、晴れ時々くもり




やっと体調が復活

実は日記に書かなきゃ

いけないことがたくさん




その中でも特に凄いのが

私の誕生日パーティだ




そしてなんと

あの男の子も

来るらしいのだ




仕事の友人とその息子も

呼んであるとお父さんは

確かにそう言っていた




これはちょっと大事件だ

当日の服をどれにするか

気合を入れて選ばないと




あまり過剰な期待は

出来ないってちゃんと

わかってるつもりだけど




友達になってもらえるかな











写真素材♪ラブフリーフォト 撮影者:べりぃ 様

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2014/03/04 散文詩:連作で小説に近い詩 Comment(0)

「想いは流れる」第十一詩:日記の中の遺言





警察での事情聴取は 

驚く程簡単に終わった 

そして警察の人は 

最後に僕にこう言った 




「彼女が持っていた 

日記は間違いなく 

本人の筆跡だったよ」 




亡くなった彼女に 

僕は守られていた 

僕に非は無いという 

内容だったのだろう 




僕は彼女の葬儀に出た 

逃げる事は絶対に 

許されなかった 




もし誰かが許しても 

僕自身が許せなかった 




親族の人や関係者が 

たくさん訪れていた 

もちろん全員僕の事を 

知っているはずだった 




その場の誰も僕に 

何も言わなかった 

ただ泣きながら 

静かに微笑んでいた 




それが僕を 

いっそう苦しめた 




ありがとうと言われた 

何を言ってるんだろうと 

はっきりしない頭の中で 

そんな事を考えていた 




誰も何も言わない 

泣いているのに 

それでも微笑んで 

ありがとうと言った 




それが僕を 

いっそう苦しめた 




そのお礼を言っている人が 

彼女の母親だと気付いた時 

隣に立っていた父親が 

僕に話しかけてきた 
 
 
 
 
「……君を殴って

やろうと思っていた 




だが子供が

持っていた

日記を読んで 




私の考えは全く逆に 

変わってしまったよ 

本当にすまなかった 

つらい思いをさせた 




日記にも書いてあるが 

君が気に病む必要は無い 

残念だが私の子供はもう 

長くは無かったのだから 




子供の遺言が日記の

最後に書かれていた

君にこの日記を




渡して欲しい、と……」
 
 
 
 
僕は受け取った彼女の

日記を呆然と眺めていた

彼女との最後の夜に見た




あの日記帳だった




僕は彼女の気持ちを

知るのが怖かった




答えは目の前にあった

だがそれを見るのに

少なくない勇気が

必要だったのだ




恨んでいただろうか

不自由の無い体の僕を

妬んでいただろうか




結果として僕は

彼女に何もして

あげられなかった




苦しかったはずだ

悲しかったはずだ

その先に希望など

無いと知っていた




それでも僕はあの笑顔を

嘘だと思いたくなかった

どうしても信じたかった




答えは目の前にあった

でも僕は彼女の気持ちを




知るのが怖かった














写真提供:GATAG 著作者:George Hodan(著作権放棄)

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2014/03/04 散文詩:連作で小説に近い詩 Comment(0)

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