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Destination Station of a Dream
どうやらここは
自然公園らしい
舗装されていない
駐車場の奥に何か
小さな建物が並ぶ
最初はトイレで夜を
明かす事になるかと
思ったのだが幸いにも
休憩施設が備わってた
トイレは窓もドアも無く
吹きさらしの建物だった
だけどその休憩施設には
外気を遮断する窓もある
入り口の床が地面だった
拾ってきた木や草もある
そこで僕は木と草を積み
奥の喫煙室から拝借した
ライターで着火し暖を取る
何とか僕たちは助かった様だ
僕がそうしている間
あの娘はずっと椅子に
座って何かを書いていた
日記だと言って彼女は
照れくさそうに笑った
彼女が持っていた
肩掛けのバックには
日記が入っていたのだ
眠る前に彼女は
その日記を絶対に
見ないでねと僕に
何度も念を押した
信用が無いんだなあと
僕が言ったら彼女は
笑いながらこう言った
「信用してるよ」
僕はその夜眠らなかった
火を絶やさないように
たくさん出る白い煙が
部屋にこもらないように
翌日の朝早くに
彼女は目を覚ました
そして僕を見て
柔らかく微笑んだ
「何とか夜を越せたね
君が厚着だったのも
良かったんだと思う」
僕がそう言うと
悪戯っ子の様な
表情で白状した
「当然だよ
だって計画的
犯行だったからね」
僕は呆気に取られて
何も言えなかった
最初からこの娘は
すぐ帰るつもりなど
全く無かったのだ
「ごめんね
でも本当にありがとう」
彼女はそう言いながら
僕の文句から逃げる様に
ドアを開けて外に出て
そこで突然倒れた
悪い冗談かと思って
僕は彼女に呼びかけた
だが彼女は動かなかった
慌てて彼女を
抱きかかえたが
息をしていなかった
脈らしきものも感じない
世界が暗転した
僕は悪い夢を見ていた
僕の声は届かなかった
彼女の命を奪ったのは
僕だと気付いてしまった
風のざわめきの中で
小鳥達のさえずりの中で
木漏れ日の煌めきの中で
微笑みながら君は
眠り続けていた
僕の声は届かなかった
僕は悪い夢を見ていた
小鳥達のさえずりの中で
木漏れ日の煌めきの中で
風のざわめきの中で
「ごめんね
でも本当にありがとう」
君の最後の言葉が
僕の胸を深く抉った
無理にでも彼女を
止めるべきだった
世界が急速に色褪せてゆく
僕は取り返しの
付かない事を
してしまった
君の笑顔の代償は
余りにも大きかった
僕は罰を受けなければ
目の前の事実が
氷の冷たさで
刃となって
鈍く光る
その向けられた
絶望の刃を僕に
突き刺してくれ
僕の胸の
奥底に渦巻く
罪に届くように
君の笑顔の代償
冷たい絶望の刃
背負った罪と罰
その痛みに
耐えられなければ
そこで全ては終わる……
写真提供:GATAG PublicDomainPictures(著作権放棄)
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本当に僕が馬鹿だった
そうとしか思えなかった
確かに、駅のホームから
見えた海は近くに感じた
恐らく20分も歩けば
たどり着ける距離だなと
10分歩いてなぜ
終点の駅が海まで
届いていないのか
すぐに思い知った
目の前は崖だった
森に隠れて見えなかった
どうやら海まで行くには
ずっと西まで森を抜けて
遠回りしなければ駄目だ
引き返そうか、と
僕が言うと彼女は
泣きそうな視線で
僕を見つめ返した
でもそれは彼女が
わがままを通す為に
演技をしているわけでは
無いと僕もわかっていた
今まで何度も引き返そうと
言い続けているうちに
気が付いてしまった
「戻ろうか」
この言葉は彼女にとって
人生で初めて見る夢の
終わりを意味してたのだ
本当に甘いな僕は
そう思ったけれど
「……もう少しだけなら
先に進んでみてもいいよ
あの海の方面に降りられる
場所があるかもしれないし」
その言葉に彼女は
本当に嬉しそうに笑う
だが僕が馬鹿だった
そうとしか思えなかった
30分後にはどっちが海か
どっちが駅かもわからなく
なってしまっていたのだ
これはまずいと彼女に
借りた携帯の画面には
「圏外」の文字が浮かぶ
僕は取り返しの
つかないことを
してしまったかも
しれないと思った
3月になったとはいえ
夜や明け方の冷え込みは
まだかなり厳しいはずだ
僕には問題が無くても
彼女はそうはいかない
最悪の予感が頭をよぎる
考えたくも無い最悪の予感が
だが当の本人は
全く落ち込んだ
様子が無かった
たくさん話しながら
楽しそうに森の中を
軽やかに歩いていく
病気だなんて嘘みたいに
世界って眩しいね
風がくすぐったい
そう言いながら
僕の方へ振り向いて
幸せそうに笑っていた
風がくすぐったいなんて
思ったこともなかった
世界が輝いているなんて
思ったこともなかった
草原で転んで
痛くないと
笑っていた
川の水が
冷たいと
驚いていた
誰もいないところで
悩んでいるくせに
誰もいないところで
泣いているくせに
それでもあの娘は
幸せだと笑った
僕に出来る事なんて
もう何もなかった
風がくすぐったいなんて
思ったこともなかった
世界が輝いているなんて
思ったこともなかった
出逢ってしまったことに
僕は激しく後悔していた
出逢わなければきっと
あの娘は幸せだった
少なくともこんな
酷く寂しい場所で
死に怯えなくても
済んだはずだった
悩んでいたくせに
泣いていたくせに
それでもあの娘は
幸せだと笑った
陽は西へ大きく傾き
無慈悲な夜の到来を
僕たちに告げていた……
写真撮影者:サヤキ
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その場の誰も僕に
何も言わなかった
ただ泣きながら
静かに微笑んでいた
それが僕を
いっそう苦しめた
ありがとうと言われた
何を言ってるんだろうと
はっきりしない頭の中で
そんな事を考えていた
誰も何も言わない
泣いているのに
それでも微笑んで
ありがとうと言った
それが僕を
いっそう苦しめた
僕たちは現在
なぜか電車に
乗っている
言い訳をしなければ
いけないと思うのだ
外に出た彼女は突然
海が見たいと言った
あの時見れなかった海を
気持ちはわからなくは
なかったのだけれど
当然僕は駄目だと言った
彼女は目を細めて
軽く微笑みながら
こんな事を言った
「歩いている方が体に
負担がかかるわよね
電車で行くのだから
その方が私は楽だわ」
そういう問題じゃ
無いだろうと僕は
もちろん反論した
すると彼女は
ますます目を細めて
僕を脅す作戦に出た
「私はこうして外に
もう出てしまった
あなたも共犯だね
私達もう、引き返せないのよっ」
なんて酷い話だ
騙されたのか僕
でも彼女の言葉に
反論は出来なかった
僕は確かに共犯だし
あまり彼女が歩くのを
見てはいられなかった
最初はあんなに
軽かった足取りが
数分でみじめに
引きずられていた
持っている肩掛けの
小さなバックですら
重そうに見えてしまう
座って景色を
眺めるだけの
電車の方が
賢い選択じゃ
ないかと思った
僕はもう既に
気付いていた
これが彼女の最後の
自由なのだという事に
なるべく彼女の
わがままを聞いて
あげようと僕は病院を
出る時に決めていたのだ
物凄く
怒られると
思うけれど
でも、目の前で
窓の外を眺めながら
子供のようにはしゃぐ
彼女の姿を見ていたら
そんな事は
どうでもいいと
その時の僕は
思ってしまった
やがて電車は
終点に着いた
海が見える小高い
自然に囲まれた山麓
駅のすぐ傍に
美しい森の間を
海へ向かって
川が流れていた
電車を降りて
彼女は木々の間に
ほんの少し見える
海をずっと眺めてた
本当はそこまで
君を連れて行って
あげたかったけど
帰りの電車代しか
僕の財布にはもう
残されてなかった
僕はそれを正直に
彼女に打ち明けて
君の気が済んだら
戻ろうかと言った
彼女はすぐには
答えなかった
そしてしばらくして
こんな事を僕に言った
「歩いて行けない
距離じゃなさそう
ね、行ってみない?」
写真提供:写真素材「足成」様
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あの時と同じ
空気のにおいがした
あの時と同じ
水のせせらぎが聞こえた
まるであの頃の僕を
切り取ってこの場所へ
置き去りにしたかの様に
雨が降る中
僕は歩き始める
あの時と
同じ空気の
この場所から
あの時と同じ
水のせせらぎの
この場所から
切り取られ
時を止めた
この場所から
置き去りにされた
この場所から
再び雨の降る中
僕は歩き始める
「裏庭の奥に扉があるの」
そんな事を彼女は
声をひそめて僕に言う
今日の彼女は私服姿だ
不覚にもかわいいな
などと思ってしまったが
その次の言葉を聞いて
そんな感想はどこかへ
木っ端微塵に吹き飛んだ
「脱走するのよ私達」
僕は一瞬彼女が
何を言っているのか
全くわからなかった
脱走……私「達」
って、僕もなのか
脱走っていったい何
病院からって事なの?
そんな僕の質問に
失望の表情で肩を
すくめて見せる彼女
「病院からの脱走に
決まってるでしょ
人生にはたった
2つのモノしか
存在しないのよ
やるか、やらないか」
得意げに笑いながら
そう断言する彼女に
僕は断固として抗議
しなければならない
「何無茶苦茶な事
言ってるんだよ
そんなの駄目に
決まってるって」
僕のその言葉に
彼女は怒ると思った
なのに彼女は
寂しそうにこう言った
「最近調子が
少し良くて
お医者様から
外出許可が出たの
だけど外出と言っても
親の監視付きなのは
間違いないと思うの
せっかくの自由なのに
だから少しの間だけでも
親が迎えに来る前に
ここから抜け出して
その自由ってものを
味わってみたいだけ
本当にそれだけなの
協力、してくれるよね」
本当にずるいなぁと思った
そんな顔でお願いされたら
嫌だなんてとても言えない
僕はそんな事を
考えながらも
最後の抵抗を
試みたのだった
「でも、何かあったら
いったいどうするの
また発作でも起きて
大変な事になったら」
彼女は不敵に笑って
ポケットから携帯を出し
僕の目の前に突き出した
「大丈夫よ、ほらこれ
父親って仕事で3つ
携帯持ってるんだけど
そのうち1つはほとんど
使わなくなったらしいから
ちょっと借りてきちゃった
中庭や裏庭に出たら使えるし」
借りてきたなんて
本当なんだろうか
黙って持ち出した
そんな気がするが
言わないのが賢明だきっと
彼女は何も言えない僕に
さらに言葉を続けた
「だからお願い
何かあったら
すぐ携帯使うから
少しだけ出ようよ」
僕はどうするか迷った
でも、確かに彼女の言う通り
再び僕たちが話すようになった
ここ3日くらいは彼女の様子も
決して悪い様には見えなかった
ほんの少しの時間なら
ここで僕と話してるのと
彼女の負担はたいして
変わらないだろうと思う
彼女は真剣な眼差しで
僕の返答を待っていた
僕は大きくため息を
つきながらそれに答えた
「……わかった、つきあうよ」
写真撮影者:サヤキ
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僕は彼女の気持ちを
知るのが怖かった
答えは目の前にあった
だがそれを見るのに
少なくない勇気が
必要だったのだ
恨んでいただろうか
不自由の無い体の僕を
妬んでいただろうか
結果として僕は
彼女に何もして
あげられなかった
苦しかったはずだ
悲しかったはずだ
その先に希望など
無いと知っていた
それでも僕はあの笑顔を
嘘だと思いたくなかった
どうしても信じたかった
答えは目の前にあった
でも僕は彼女の気持ちを
知るのが怖かった
4日目の夕方
ついに彼女は
折れてくれた
今まで決して
開かなかった
個室のドアが
ゆっくりと開いた
「あなたって馬鹿なのか
よっぽど暇なのね」
久しぶりに顔を
見たというのに
彼女の言葉には
容赦の欠片も無い
僕は笑って答えた
どうもそうみたいだ、と
彼女の目は
赤くなっていた
それを見て僕は
少し心が痛んだ
二人で、談話室のように
訪れる人が自由に使える
広めのフロアへと移動した
彼女はどうやら
観念したらしく
おとなしく僕の
後ろについてきた
でもそれからの彼女は
昨日までの彼女とは
まるで別人だった
たくさん笑って
怒って拗ねて
そしてまた笑う
無くしていた時間を
僕たちは取り戻した
そんな彼女は
自分が今着ている
病院服がご不満らしい
「どうせ明日も来るんでしょ
なら私の家に寄って私服を
持ってきて欲しいんだけど
家にはちゃんと
連絡しておくから
お使いよろしくね」
などと言う
女の子って
そういうものなのか
どうせ彼女の家は
この病院に来る途中だ
断る理由も無いので
軽い気持ちでいいよと
言ったのに睨まれてる
なぜそんな凄い形相に
なってるのかわからず
困ってる僕に彼女は
こんな失礼な事を言う
「途中で中見ちゃ駄目よ絶対に」
写真撮影者:サヤキ
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