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Destination Station of a Dream
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19世紀には既に
メキシコとアメリカの国境を
挟んだ密輸は日常だった
民衆は国境内外で
値段が異なる物を売り
僅かな収入を得ていた
1930年代には禁酒法撤廃をきっかけに
ヘロインやマリファナが需要を増し
運び込まれるようになった
「俺は強盗だ
金目の物全て出すなら
命だけは
見逃してやってもいいぜ」
寂れた街道の途中で
呼び止めた女性に
男は銃口を突き付けた
彼女は震える声で言った
「子供の命を救うには
お金がどうしても
必要なんです
見逃してください」
男の目が
薄く細められた
「こども……
だと?」
その場所に銃声は響かず
間も無く陽が落ちて
あたりは暗闇と
静寂に包まれていった
1850年代にはアメリカで
アヘン中毒は深刻な
社会問題となった
解決策として
当時は作用が弱く
中毒性が無いと
見られていた薬物
モルヒネがアヘン中毒者に与えられた
モルヒネ中毒はすぐに
アヘン中毒よりもさらに
大きく深刻な問題となった
「貴方は強盗だと
確かそう言いましたよね
どうして私のお金を
奪わないのですか?」
彼女のその言葉に
男はそっけなく
無感動に応じた
「いい男だからさ俺は
ここは麻薬の売人が
国境を越えるルートだ
食う為に女も運び屋をやってる
あんたみたいな女もな
国境の向こうじゃ
コカインの相場が暴落
ヘロインが売れなくて
だぶついてるのさ
売人は国境を越えて
だぶついたヘロインを
向こう側で捌こうって
そういう寸法だ
言うなれば俺は
麻薬の蔓延を防ぐ
正義の味方ってやつさ
無論実益も兼ねるがね」
彼女は男をじっと見つめた
そんな彼女に気圧されて
男は慌てて言葉を続けた
「勘違いするなよ
そんな辛気臭え金で
飯なんぞ食っちまったら
寝覚めが悪いからな
それだけだ」
彼女はついに吹き出して
笑ってしまった
ひとしきり笑った後に
彼女はさらに男に尋ねた
「お金はともかく
奪った麻薬は
どうされているのですか?」
男は身を隠している
岩陰の石にもたれかかり
つまらなそうに応じた
「川に捨ててるさ
食えるものじゃ
ねえからな
それよりお前さん
本当に子供を救いてえなら
今日はここで眠ることだな
このあたりには
俺みたいなのが
うじゃうじゃいるぜ
そいつらはためらわず
引き金を引くぜ
そしてあんたの金は子供に
永久に届かない」
脅すつもりで男は
そう言ったのだが
なぜか女性に怯んだ
様子は無かった
「不思議な人ですね
貴方はどうして
その銃の引き金を
引かなかったのですか?」
男はその言葉に
目を閉じて答えた
「俺には娘がいた
もう死んじまったがな」
彼女は突然理解した
なぜ彼が自分を
殺さなかったのかを
アヘンと同じように
モルヒネの患者には
また別の中毒性がない薬物
ヘロインが与えられた
だがそれはモルヒネよりも
さらに中毒性が高い薬物だった
だが二人の会話は
そこで突然の中断を
余儀なくされた
乾いた銃声が辺りに轟き
二人が座る場所の
わずか先の石を
砕いたからである
彼女は悲痛な声で
彼に向かって叫んだ
「私を追ってきたのだわ
逃げてください
あの人たちの目的は
私だけなのです
あなたを
あなたを巻き込むわけには……」
彼女の言葉は
そこで途切れてしまった
彼が彼女の手を引いて
森の奥へと
走り始めたからである
コカインの性質が
把握されてなかった時代
依存性は無いと考えられた為
他の薬物依存症の患者に対し
コカインを処方し
治療する者もいた
著名な心理学者フロイトも
他者と自身にコカインを処方し
重大な依存症を引き起こした
しばらく走った後
二人は大木の根元の
小さな窪みに身を隠した
息を切らしている彼女に
煙草に火を付けながら
男は話しかけた
「こんなひでえ目に
あわされてるんだ
理由を聞く権利ぐらい
俺にはあると思うんだがね」
彼女は目に涙を溜め
彼の言葉に答えた
「私がどれだけ働いても
子供を救うお金を
稼ぐのに何年も何年も
かかってしまいます
商品の取引で目の前に
目の前にお金があったの
これが子供を救える
そう思ったら
気が付いたら私は
お金を持って
国境に走ってた……」
彼は煙草の煙を
くゆらせながら
面白くも無さそうに笑った
「魔が差したってとこか
おそらくあんたの良識は
有給休暇をとって明後日の
方向へ旅行中だったんだな
どうやら奴ら
金を取り戻すために
ヤバい連中を
雇ったみたいだぜ
まったく
稼ぎの悪い亭主を持つと
大変だねえ女ってヤツは」
その言葉に彼女は
涙に光る瞳で
笑みを作りながら言った
「夫はいません
あの国境の向こうでは誰もが
自分一人が食べるだけで
精一杯なのですから」
彼は吸い終えた煙草を
闇の中へと投げ捨てた
「そんな話には興味ないね
身の上話なんざ俺の
腹を満たしてはくれねえ
どうでもいいがあんた
相当な金額を
ふんだくったみてえだな
どこにそんな金持ってるんだ?」
彼女は力なく笑って答えた
「切手にかえました
到底持てる重さでは
なかったので……」
彼は愛用の銃に
弾を込めながら
感嘆の声をあげた
「ほう……なるほど
おりこうさんだな
俺がそう思ったのは
あんたで二人目だ」
彼女は涙を
拭いながら彼に聞いた
「じゃあ一人目は
誰だったの?」
彼は唇の端を
僅かに吊り上げて
片目をつぶりながら
こう答えた
「決まってる
死んだ娘だ」
写真提供:総合素材サイト「ソザイング」様
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2014/01/23 自由詩:短編を様々な作風で Comment(0)
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