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Destination Station of a Dream
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あなたのそばにいよう
あなたのそばで眠ろう
たとえ神の気紛れが戯れに見せた
つかの間の夢が終わろうとも
あなたのそばにいよう
あなたのそばで眠ろう
訪れることの無い明日とともに
霧散し掴めなかった夢とともに
奪われたものを嘆き悲しむよりも
残されたものに感謝をしよう
手の届かぬものを欲し足掻くよりも
目の前にある愛に誠実でいよう
本当に必要なものは
この胸の内に在った
本当に大切なものは
この胸の内に在った
抱き締めれば壊れそうな
儚く哀しい奇跡さえも
淡く美しい希望さえも
全てこの胸の内に携えて
あなたのそばにいよう
あなたのそばで眠ろう
たとえ天と地が秩序を失い
あなたを照らしていた星々が
燃え尽きて地に堕ちようとも……
彼は声にならない
叫びとともに目を覚まし
半身を起こした
自分は気を失って
ベッドに寝かされていたと
そう気付いたのは
それから数分後の事だった
そうだよ僕は
あの手紙に書いたはずだ
僕は生きて子供に会って
約束しなければいけないんだ
彼はゆっくりと
ベッドから離れた
隣の部屋には愛する妻
そしてひょっとすると
彼らの子供までが
彼を待っているかもしれない
幸せの予感は
彼にこの上ない喜びを与えてくれた
生きてる
僕は生きているんだ
そうだ僕は子供に
子供に会えるんだ
きっと君は数年後に
あの手紙を読むだろう
パパはうそつきじゃなかったぞ
生きて、生きて君に会える
生きて君に約束するんだ
君に会って直接
ああ、僕は
僕はまだ生きているぞ
彼がおぼつかない足取りで
隣の部屋に行こうと
ドアのノブに手を
かけようとしたその時
ドアは彼が手をかける前に開き
少し驚いて後ろによろめいた
彼の眼前に姿をあらわしたのは
妻の面倒を見てくれていた医者
その医者の深刻な表情で
彼は何かあったのだと
一瞬で理解してしまった
「……残念な事を
申し上げなければなりません」
本当は医者の
その後に続く言葉は
彼にはもはや不要だった
残念な事
その一言が彼に
最悪の結末を予想させ
その疑惑は
医者の沈んだ顔を見て
確信へと変わった
「待って下さい先生
そんな
そんな事僕は信じませんよ
そんな
聞きたくない
いやだ
いやだ僕は聞きたくない」
幸せの絶頂から
奈落の底へと
一気に突き落とされた彼は
湧きあがる感情を
抑える事が出来ず
悲痛な叫びとともに
体中をかきむしった
「お願いだ先生
言わないで
言わないでくれ」
医師も同様に無力感に囚われていた
それでも医師としてどうしても
これだけははっきりと
彼に伝えなければならなかった
「無事に子供が取り出せたのは奇跡です
彼女は子供が産まれる少し前にすでに
息を引き取っておいでだったのですから」
医者の言葉を
耳に入れるのを
拒むかのように
再び彼は叫んだ
「うそだ
こんな
こんな馬鹿な事があるものか
あっていいはずがないんだ
先生
死ぬのは僕だ
僕なんだ
彼女が死んでいいはずがないんだ
先生
お願いだ
うそだと言ってくれ
死ななきゃならないのは僕なんだ」
彼は医者の服をつかんだまま
ゆっくりとその場に崩れ落ちた
こんなひどい運命が
僕を待っていたなんて
子供に
子供に会えなかったのは僕じゃなく
君だったなんて
私とあなたと
私達の子供
一緒に
一緒に暮らせるのね
思い出されるその彼女の言葉が
彼の病んだ胸をさらに深くえぐる
医師は自らの挫けそうな気持ちに
鞭を打った
そして絶望に打ちのめされる彼に
説明を続けた
「一人目の子の時はまだ彼女は
無事だったのですが
二人目の子を産む寸前に
亡くなられてしまいました
彼女の頑張りを
どうかほめてあげてください
産まれた双子は
異常も無く元気なのですから
そうです
彼女が死と引き換えに
無事に産んだのは
双子の女の子です」
写真提供:free.stocker 様
2014/01/20 散文詩:連作で小説に近い詩 Comment(0)
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