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Destination Station of a Dream
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愛することさえ
許されなかった
愛されることを
捨ててもなお
許されなかった
それは淡く輝く虹が
やがて空の鮮烈な蒼に
とけて消えるかのように
それは流れ行く雲が
その形を、その姿を
とどめておけないように
時の彼方に想いは去っていく
あなたの最後の言葉さえも
避けられなかった死が
記憶とともに奪い去っていく
愛することも
愛されることも
許されなかった
虚無へ堕ちていく存在へ
最後に残された天使の両翼
せめて君は愛して欲しい
せめて君は愛されて欲しい
そしてこの幸せを胸に
虚無の世界へと旅立とう
愛することも
愛されることも捨てて……
その日彼は
いつもの様に
狭いベッドの上で
もがき苦しんでいた
もはや彼の身体には
どんな薬も無意味である
そして妻はいつもの様に
彼の身体をさすり
やがて麻薬を取りに
隣の部屋へと向かう
それは
突然の事だった
彼はシーツの端を
握り締めながら苦痛に耐え
愛する妻を待った
しかしそこまでは
いつも通りだったが
いつまでたっても彼の所へ
麻薬が届けられる事はなかった
妻の身に何かあったのだろうか
まさか
彼は重い体を
引きずる様にして
隣の部屋へと向かった
時は来た
彼は隣の部屋で
倒れていた妻を
一言励ますと
苦痛に身をよじらせながら
部屋を出た
電話で医者の手配を済ませると
すぐさま妻のもとへと駆け寄り
そんな二人のもとへ
医者が駆けつけたのは
それから二十数分後の事だった
「これはいけません
すぐに子供を取り出さないと」
医者は即座に湯を沸かし始めた
彼は手伝おうと立ち上がり
そのまま前のめりに
崩れ落ちて動けなくなった
産まれる
もうすぐ子供に会える
あれから
何時間が過ぎただろうか
いや数分しか
たっていないのかもしれない
彼はその待っている時間が
永遠のように感じられていた
ドアの隙間から
愛する妻のうめき声が聞こえる
ついに彼は
待ち続ける事に耐えられなくなり
そのドアを開けて
部屋の中へと入った
その瞬間
彼のまぶたに焼き付いたのは
妻の痛々しい姿だった
彼は凄まじい苦痛の中
気丈にも彼女に
笑みを見せてその手を握った
「僕はここにいる
ここにいるよ
さあがんばって
僕達の子供に会わせてくれ」
彼女は力なく彼の手を握り返した
「私とあなたと
私達の子供
一緒に
一緒に暮らせるのね
一緒に
暮らせるのね……」
彼女は再び力なく彼の手を握りしめた
重苦しい表情で
医者は彼の方へと振り向いた
「……残念ながら
切開になります
危険な状態ですが
最善はつくします」
彼は自分が死ぬと
告知された時よりも
青ざめ不安に打ち震えた
そして彼は自分の為に
彼女が語った言葉を思い出していた
私奇跡を信じるわ
きっと神様が
あなたと子供を引き会わせる為に
あなたに命を下さっているのだわ
その時は一笑にふした
一言であったはずだった
しかし彼は今
生まれて初めて神に祈った
愛する妻と
子供の無事が
約束されるというのなら
相手が悪魔であろうと
即座に彼は自分の魂を
売り渡した事であろう
信じ難いまでの痛みが
蝕まれた彼の身体を襲う
しかし彼は一心に祈った
だが苦痛はさらに彼を
精神的にも肉体的にも蝕んでいく
「早く無事に終ってくれ……」
その一言を最後に
彼の意識は遠くなっていったのだった
写真提供:写真素材「足成」様
2014/01/20 散文詩:連作で小説に近い詩 Comment(0)
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