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Destination Station of a Dream
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奪われても恨むなと
神は言った
失っても嘆くなと
神は言った
求めれば与えられると
神は言った
全てを奪い尽くされて
もはや今の自分には
嘆く時間も求める時間も
在りはしないというのに
奪われても恨むなと
失っても嘆くなと
求めれば与えられると
神は言った
死を目前にした自分にとって
その全ての言葉が
神の戯言だった
若い女の悲痛な叫びが
薄暗い部屋に鋭く響く
「どうしたの
痛むの?
お薬持って来ましょうか」
先程まで悪夢に
うなされていた夫が
愛する妻の声に目を覚ました
気丈にも笑顔を見せて
ベッドから身を起こそうとした
だが苦しみのあまり胸を抑えて
再びベッドの上へと倒れ込む
「いやさっき寝る前に
もう飲んだよ
どうやら薬が
効かなくなってるみたいだ
すまないが麻薬を
麻薬をを持ってきてくれないか」
哀しみに満ちた目で
彼女は愛する夫の
苦しむ姿を成す術も無く
哀しげに見つめていた
出来る事なら代わってあげたい
自分が苦しむほうが
どれほど楽だろう
彼女は本気でそう思っていた
もう夜中の
三時をまわる頃だった
辺りはしんとしていて
彼女が隣の部屋へ
麻薬を取りに行く
その足音だけが空ろに響く
彼女は持ってきた注射器と
薬を彼に手渡した
自らの最愛の夫が麻薬を打つ
そんな痛ましい光景を
見る事に耐えられず
彼女はずっと目を伏せたまま
彼が落ち着くのを待った
「心配ばかりかけて
本当に済まない
本来なら僕の方が
君の身体を案じるべきなのに
全く不甲斐ない
情けないよ」
そう言いながら
無理に笑顔を作る彼
「何言ってるの
私達の子供に会うんでしょう
だったらそんな
弱気にならないで
一日でも長く生きていて
私の為に
そして子供の為に」
そう言って彼女は彼の手を握った
そして意を決したように
再び顔を上げて
視線を彼へと向ける
「あなた昨日
お医者様の所へ行ったわね
私ずっと恐ろしくて聞けなかった
だけどどうしても気になるの
どうだったの
お医者様は何て言ってたの?」
彼はずっと視線を
床に落としていたが
彼女は彼の顔を真っ直ぐに
見つめながら言葉を続けた
「お願い聞かせて
ありのままを話して
何を聞かされても
絶対に希望は捨てない
たとえ何があったとしても」
彼女は彼を
勇気づけるように
その冷たくなった腕を抱きしめた
「もう隠し事はなしよ
話してもらえるわね?」
彼は彼女が
麻薬と一緒に持って来た
コップの水を一口飲むと
ゆっくりと話し始めた
「……わかったよ
負けたよ君には
そうだな
もう僕達の間で隠し事はなしだ
最悪の事を言われたよ
貴方が立って歩いている
そして話しているのが不思議だ
生きている事が不思議だとね」
彼女は夫の前では
気丈に振る舞うようにと
心に固く誓っていた
だがそんな彼女の決意は
彼を想うあまりに
簡単に揺らいでしまう
自嘲気味に話す彼に
哀しみを押し隠して
妻は優しく彼に話しかけた
「でもあなたは現に
こうして生きているわ
そしてこうして私と話もできる
私奇跡を信じるわ
きっと神様が
あなたと子供を引き会わせる為に
あなたに命を下さっているのだわ」
彼はおどけるように応じた
「そうだな
僕も神を信じてみるよ
そして子供に会える日が必ず来ると
信じてみるよ」
だが運命はあまりにも残酷だった
それからたった二日後に
待ち構える呪われた終幕の時は
無力に啼く子羊を食い千切る様な
残虐で禍々しい色彩に彩られて
二人を深き闇へと飲み込もうとしていた
写真提供:free.stocker 様
2014/01/19 散文詩:連作で小説に近い詩 Comment(0)
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