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Destination Station of a Dream
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あなたがた
いま飢えている人たちは、さいわいだ。
飽き足りるようになるからである。
あなたがた
いま泣いている人たちは、さいわいだ。
笑うようになるからである。
「ルカによる福音書」第6章より抜粋
もはやこの二人の間に
無粋な言葉は
必要としなかった
彼等はお互いを
強く抱きしめたまま
しばらくの間動かなかった
やがて彼は
妻の澄み切った瞳を
覗き込むようにしながら
恐れるように口を開いた
「どうして
どうして戻ってきたんだ」
慈愛に満ちた声で
慈愛に満ちた微笑で
彼女は彼に答えた
「私ね
忘れ物を取りに来たの
そう
あなたの事よ
私ね
あなたが隠していた物を
また
見付けてしまった」
そう言って彼女が
夫に差し出したのは
彼が書いていた
まだ見ぬ子供に向けた手紙
出会う事すら
叶わぬかもしれぬ
我が子に向けた手紙だった
「ごめんなさい
私知らなかった
あなたが病気だったなんて
たった一人で苦しんでいたなんて
ごめんなさい
私知らなかった
あの麻薬は病気の苦痛を
和らげる為のものだったのね
あの時に気付くべきだった
なのに私は
何もわからずに
あなたを責めてしまった」
彼は力なく
うつむいて
肩を落として言った
「違うんだ
悪いのは僕なんだ
君に嘘をついてしまった
僕は馬鹿だよ」
その言葉を聞いて
彼女はゆっくりと
彼の体から離れていった
「そうよ馬鹿よ
あなたは馬鹿よ
あなたの気持ちはわかる
自分の病気の事で
私の重荷になってしまう
そう考えて私を突き放した
そうでしょう?」
弁解は出来なかった
全て彼女の言う通りだった
言葉を無くす彼に
彼女はさらに語りかける
「でもやっぱりあなたは馬鹿よ
私あなたを失って
子供まで失っていったい私
どうやって生きていけばいいの?
酷い人だわあなたって
私の知らないところで
勝手に何もかも決めてしまって
そうしたら私
どうやって生きていけばいいの?
あまりにも
あまりにも酷いわ」
抗弁の余地は無かった
だがそれは純粋に
彼女の幸せを願う
彼の選択だった
「すまない
でも僕は
あれが一番いい選択だと……」
彼女はそっと
彼の口を両手でふさぎ
虚勢の暗い影など
全く見当たらない
清浄なる笑みを
澄んだ瞳を
彼に向けて静かに
しかし毅然とした態度で
こう言ったのだった
「言わないで
お願い
もうそんな事言わないで
私決めてしまったの
ずっと
ずっと
あなたのそばにいるって
私決めてしまったの」
あの手紙を
まだ見ぬ子供への手紙を見た時に
強く固めたこの揺らがない気持ち
私はあなたを愛しています
2014/01/19 散文詩:連作で小説に近い詩 Comment(0)
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