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Destination Station of a Dream
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酷く冷たい夜だった
施設の薄暗い部屋の中
泣き疲れて眠っている
二人の我が子を目の前に
彼はゆっくりと座った
君達が双子だったのは
神の奇跡だよ
ママが死んで
そして僕が死んでも
君達は一人ぼっちじゃない
そうさ、独りじゃないんだ
はじめまして
僕が君達のパパだよ
やっと逢えたね
二人の赤子は良く眠っていた
彼は二人を起こす事のないよう
静かに
しかしはっきりと言葉を続ける
君達二人が双子だったのは
本当に神の奇跡だ
妹の方は彼女の死後すぐに
産まれたって聞かされたよ
ひょっとしたら彼女の
生まれ変わりなのかな
そうじゃないとしても
君達は本当に凄いな
家族無しで今からどうやって
生きていくのか心配したのに
自分達だけで
何とかしちゃうんだからね
ずっと長い間
優しい眼差しで双子を
見つめ続けていた彼は
やがてゆっくりと立ち上がる
彼女が聞けば親馬鹿だって
笑われるかもしれないけれど
美人になるよ
きっと君達は美人になる
去っていく僕とママを
どうか許して欲しい
そしてお互いの言う事を
良く聞いて支え合って欲しい
僕とママからの
最初で最後のお願いだ
愛して愛されて
どうか幸せになって欲しい
彼は立ち去ろうとしたが
最後に彼はもう一度振り返り
並んで眠る二人の赤子に
微笑みながら語りかけた
よく聞いてくれ
僕はママの所へ行ってくるよ
いつだって僕達は
君達をあの空から見守ってる
ひどく冷たい夜だった
夕方から降り続いた雨は
いつしか雪に変わり
寂れた街を白く包んでゆく
彼は孤児院を出て
彼女が眠る場所へと向かった
辛くも幸せだった
この儚い人生での記憶
その様々な景色が次々と
彼の脳裏に浮かんで消える
天国にも雪が降る
失うのが怖かった
消えゆくのが怖かった
これ以上この痛みに
もう耐えられなかった
奪われても恨むなと
失っても嘆くなと
そして求めれば与えられると
神は言った
死を目前にした自分にとって
その全ての言葉が
神の戯言だった
天国にも雪が降る
この命では足らなかった
生まれて初めて祈った
神を恨みながら祈った
この呪われた時の狭間で
愛する妻と
子供の無事が
約束されるというのなら
でも僕が本当に必要で大切なもの
それはこの世界に無かった
この胸の内に在った
あなたがそうであるように
天国にも雪が降る
頬を叩いていた冷たい風は
やがて背中を押す勇気に変わる
たとえ避けられない死が
この想いと記憶を連れ去ろうとも
奪われた未来も
叶うことの無い希望も
弱さも醜さも愛しさも
全てを真っ白に染め上げて
天国にも雪が降る
そして愛することも
愛されることも
許されないままに
虚無へと堕ちていく僕へ
最後に残された双子、天使の両翼
せめて君は愛して欲しい
せめて君は愛されて欲しい
そしてこの幸せを胸に
虚無の世界へと旅立とう
あなたが残してくれた
唯一最後の希望と奇跡
天使の両翼は遥か彼方
力強くはばたいていく
あなたが見守るあの空の下を
彼が彼女の眠る場所へ
歩き始めてから
既に数時間が経っていた
息は乱れ
その足はボロ雑巾よりも
惨めに引きずられている
だが彼の瞳だけが
その病んだ身体を突き動かす
強い意志の輝きを見せている
あの頃は本当に幸せだった
僕は君と結婚できて
本当に良かった
今でもそう思ってるよ
そしてきっと僕は
生まれ変わって
再び君に恋をする
雪は音もなく
しんしんと降り続き
彼と墓標の上に
緩やかに積もっていく
彼は墓標にかかった雪を
少し払い落とした
そのすぐ下の土の中に
彼女は眠っている
刻まれた彼女の名が
わずかな光に照らし出されて
彼の目の前に浮かび上がる
だけど君は僕に
一つだけひどい事をした
君は僕にひどい嘘をついたね
確かに言ったはずだろ
僕が死ぬまで
僕が死ぬまでずっと
一緒にいてくれるって
彼は彼女の墓標に
寄り添うように
隣に座った
そんな二人の上に
雪はさらに降り積もっていく
彼は最後にもう一度だけ
彼女が土の中で眠る
その場所の雪を払い落とした
健気に芽吹く雪割草
それが
この生の中で彼が見る
最後の景色だった
悪くない
悪くないね
何だか僕は妙なんだけど
とても幸せなんだ
君に愛されて
二人の双子の子供に逢えて
人生の最後が一番幸福だったと
僕は胸を張ることができる
そして彼は力尽きて
ゆっくりと目を閉じてしまった
でも僕は最後の最後に君に
酷い嘘をつかれてしまったね
確かに僕も君に
嘘をついていたけれど
だからといって
子供にも会わないで
先に行ってしまうなんて
あまりにもひどいな
君の所へ行くよ
文句を言ってやらなくちゃね
酷く冷たい夜だった
雪はやむ気配を見せず
夜を通して降り続き
容赦なく衰弱しきった
彼の体温を奪い続けはしたが
寂れた街と彼と
彼女の眠る場所
そしてその苛烈な運命までも
白く優しく包んでゆく
君に会いに行くよ
そしてもう一度言うんだ
結婚を申し込んだ時の
あの言葉を
あなたに恋してました
あなたは私の全てです
あなたを愛しています
愛しています
あなたのそばにいよう
あなたのそばで眠ろう
たとえ神の気紛れが戯れに見せた
つかの間の夢が終わろうとも
あなたのそばにいよう
あなたのそばで眠ろう
訪れることの無い明日とともに
霧散し掴めなかった夢とともに
奪われたものを嘆き悲しむよりも
残されたものに感謝をしよう
手の届かぬものを欲し足掻くよりも
目の前にある愛に誠実でいよう
本当に必要なものは
この胸の内に在った
本当に大切なものは
この胸の内に在った
抱き締めれば壊れそうな
儚く哀しい奇跡さえも
淡く美しい希望さえも
全てこの胸の内に携えて
あなたのそばにいよう
あなたのそばで眠ろう
たとえ天と地が秩序を失い
あなたを照らしていた星々が
燃え尽きて地に堕ちようとも
あなたを愛しています
写真提供:free.stocker 様 続編「天国に降る雪」
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2014/01/20 散文詩:連作で小説に近い詩 Comment(0)
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