[PR]
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
- Newer : オルフェウスの竪琴(後編)
- Older : あとがきー!「天使の両翼」
Destination Station of a Dream
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
アポロンより伝授された竪琴
オルフェウスがそれを弾くと
動物達や木々や岩までもが
彼の周りに集まり耳を傾けた
「いやぁ
本当に美しい場所ですね」
立ち並ぶ石を
呆然と眺めていた女性に
一人の男が
そう言って話しかけた
女性は興味も無さそうに
男を一瞥し
再び視線を
その石の塊へ向ける
「ここはブルガリアでも
特別な場所ですね
旧ギリシア時代の
トラキアゆかりの遺跡です」
男のその言葉に
彼女は静かに冷たく応じた
「知っているわ
私はこの近くに住んでいたから」
男は少し驚いた後に
うなずきながらさらに
彼女に言葉を続けた
「なるほどそれで貴女は
この場所を選んだわけですね」
彼女は再び男に視線を向けた
先ほどと違ってその目には
猜疑の光が宿っている
「貴方はただ観光に
来たわけではなさそうね
何者なのかしら?」
男は不思議と憎めない
愛嬌のある顔でにっこりと笑って
その問いに答える
「貴女を追っている者です
と言ったら
貴女はどうしますか?」
オルフェウスの最愛の妻
エウリュディケーは
ある日毒蛇にかまれ
幸せの中突然の死を迎えた
絶望に悲しむオルフェウスは
やがて妻を取り戻す決心をし
死者のいる冥府に入った
彼女は全く驚いた様子を見せず
美しい顔に侮蔑を浮かべながら
落ち着いた声で言った
「別にどうもしないわ
こうなると知ってたから
貴方
私を捕まえに来たのでしょう
そうよ
あの男を殺したのは私」
オルフェウスの竪琴の音色に
冥界の人々は魅了され
みな涙を流して聴き入った
ついにオルフェウスは
冥界の王ハデスに会い
その竪琴を奏でて最愛の妻
エウリュディケーの返還を求めた
彼女はさらに淡々と
まるで他人の事の様に
無感情な声で話し続けた
「この場所は私が好きだった場所
子供の頃はこの石っころが
どれだけ価値があるかも知らず
よく乗っかって遊んでいたわ
あの男は奥さんと別れて
私と一緒になると誓ったの
もう奥さんとは絶対に
会わないと誓ったのよ
だけど私
見てしまったの
あの男が
奥さんと会っているところを」
オルフェウスの哀しい琴の音に
涙を流すハデスの妻ペルセポネに
説得されたハデスは
冥界から抜け出すまで
決して後ろを振り返って
妻の姿を見てはならぬ
その条件を付けて
妻エウリュディケーを
オルフェウスの後ろに従わせて送った
男の表情から笑顔は消え
沈痛な面持ちで彼女に言った
「そうでしたか
昨日の朝にそんなことが」
彼女は視線を遺跡に戻した
「だから私いそいで
列車に乗ってここへ来たの
最後にこの景色を
見ておきたかったから……」
写真提供:総合素材サイト「ソザイング」様
2014/01/21 自由詩:短編を様々な作風で Comment(0)
COMMENT
COMMENT FORM