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Destination Station of a Dream
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私は汝の行いを知っている。
汝が生きているとは名ばかりで
実は死んでいる。
目を覚ませ。死にかけている
残りの者達を強めよ。
私は汝の行いが私の神の前に
完全なものとは認めない。
だからどのように受けまた聞いたかを
思い起こしてそれを守り抜きかつ悔い改めよ。
もし目を覚ましていないなら
私は盗人のように行くであろう。
私がいつ汝の所へ行くか
汝には決してわからない。
「サルディスにある教会にあてた手紙」より抜粋
それは確かに彼が
使っていたものに
間違いなかった
彼は身体のいたるところを
病魔に蝕まれ
その苦痛は常人の
理解の範囲を既に越えていた
そう
彼の身体はその苦痛を
僅かでも和らげる為の麻薬無しでは
到底正気を保ったまま
生きてはいけないほどだった
無論
そんな事情を彼女は知るべくもない
「どうして
どうしてこんな馬鹿な事を」
妻の澄んだ大きな瞳から
止め処無く涙が零れ落ちた
返事をしない夫に
なおも彼女は
もがくように言葉を続ける
「お願い
産まれてくる子供の為にも
こんな馬鹿な事はやめて
絶対にしないと約束して」
彼は衝動的に
弁解しようとして
彼女の顔を見た
そして
その衝動を抑えたその直後
彼は突然思った
美しい
彼女はとても美しく
そして若い
そうだ
僕はもうじき死ぬ
しかし彼女はあまりにも若く
そしてこんなにも美しい
間違っていたよ僕は
自分の不幸に酔うあまり
自分の事しか
考えられなくなってしまっていた
君はこんなにも若く
そしてこんなにも美しい
君は
君は子供を堕ろすべきなんだ
そして
そして僕と別れるべきだ
僕は馬鹿だ
君の言う通りだよ
僕はもうすぐ死ぬ
しかし君は若くそして美しい
いくらでも人生を
やり直す事ができるはずだ
僕は自分の命と
彼女の未来を
もう少しで
心中させるところだったんだ
本当に僕は馬鹿だ
怯える妻の前で
彼の表情が
狂気の笑みに歪んでいく
無論それは彼の演技だった
この時の彼の心の痛みは
決して他人にはわかるまい
「もう僕達、おしまいだな
もう僕はこんな
下らない茶番に
縛られるのは御免だ
この僕に麻薬をやめろだって
君と麻薬のどちらかを
選べとでも言うのか
麻薬は最高さ
君ではなく
麻薬こそが僕の至福だ
僕を満足させてくれるのはそいつ
麻薬だけさ
君の身体じゃない
僕は自分の生きたいように生きる
したい事をする
君もそうするがいい
僕同様にね
子供なんて
足枷にしかならない
何の興味もありはしない
迷惑だ
子供なんて
今すぐ堕ろしてしまって
この家から出て行くがいい」
泣きながら部屋を背にする彼女を
優しい目で見送りながら
彼は床へ舞い降りるように
へたり込んでしまった
おわった
何もかも
ついに彼は
自分の全ての幸せを諦めた
彼の残された最後の望みは
妻の幸福であった
2014/01/18 散文詩:連作で小説に近い詩 Comment(0)
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