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Destination Station of a Dream
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あの時と同じ
空気のにおいがした
あの時と同じ
水のせせらぎが聞こえた
まるであの頃の僕を
切り取ってこの場所へ
置き去りにしたかの様に
雨が降る中
僕は歩き始める
あの時と
同じ空気の
この場所から
あの時と同じ
水のせせらぎの
この場所から
切り取られ
時を止めた
この場所から
置き去りにされた
この場所から
再び雨の降る中
僕は歩き始める
「裏庭の奥に扉があるの」
そんな事を彼女は
声をひそめて僕に言う
今日の彼女は私服姿だ
不覚にもかわいいな
などと思ってしまったが
その次の言葉を聞いて
そんな感想はどこかへ
木っ端微塵に吹き飛んだ
「脱走するのよ私達」
僕は一瞬彼女が
何を言っているのか
全くわからなかった
脱走……私「達」
って、僕もなのか
脱走っていったい何
病院からって事なの?
そんな僕の質問に
失望の表情で肩を
すくめて見せる彼女
「病院からの脱走に
決まってるでしょ
人生にはたった
2つのモノしか
存在しないのよ
やるか、やらないか」
得意げに笑いながら
そう断言する彼女に
僕は断固として抗議
しなければならない
「何無茶苦茶な事
言ってるんだよ
そんなの駄目に
決まってるって」
僕のその言葉に
彼女は怒ると思った
なのに彼女は
寂しそうにこう言った
「最近調子が
少し良くて
お医者様から
外出許可が出たの
だけど外出と言っても
親の監視付きなのは
間違いないと思うの
せっかくの自由なのに
だから少しの間だけでも
親が迎えに来る前に
ここから抜け出して
その自由ってものを
味わってみたいだけ
本当にそれだけなの
協力、してくれるよね」
本当にずるいなぁと思った
そんな顔でお願いされたら
嫌だなんてとても言えない
僕はそんな事を
考えながらも
最後の抵抗を
試みたのだった
「でも、何かあったら
いったいどうするの
また発作でも起きて
大変な事になったら」
彼女は不敵に笑って
ポケットから携帯を出し
僕の目の前に突き出した
「大丈夫よ、ほらこれ
父親って仕事で3つ
携帯持ってるんだけど
そのうち1つはほとんど
使わなくなったらしいから
ちょっと借りてきちゃった
中庭や裏庭に出たら使えるし」
借りてきたなんて
本当なんだろうか
黙って持ち出した
そんな気がするが
言わないのが賢明だきっと
彼女は何も言えない僕に
さらに言葉を続けた
「だからお願い
何かあったら
すぐ携帯使うから
少しだけ出ようよ」
僕はどうするか迷った
でも、確かに彼女の言う通り
再び僕たちが話すようになった
ここ3日くらいは彼女の様子も
決して悪い様には見えなかった
ほんの少しの時間なら
ここで僕と話してるのと
彼女の負担はたいして
変わらないだろうと思う
彼女は真剣な眼差しで
僕の返答を待っていた
僕は大きくため息を
つきながらそれに答えた
「……わかった、つきあうよ」
写真撮影者:サヤキ
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2014/03/02 散文詩:連作で小説に近い詩 Comment(0)
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