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Destination Station of a Dream
代わりに死んだオリオンを
天にあげ星座とする事で
ゼウスはアルテミスを慰めた
しかしオリオン座は今も
さそり座が東から昇ってくると
それから逃げて西に沈んでいく
抱き締めるだけでは
伝えられなかった
愛しているだけでは
伝えられなかった
あなたのその言葉に
少しずつ壊れゆく私
とけていくわ
その僅かばかりの
ため息さえも
あなたに届く前に
私は自分に何が
起こったのかを
次の瞬間には
理解していた
私を貫いた矢は
夫の物だった
この瞬間を受け入れよう
小さな光に
私はなりたい
明け方の夢の中で
暗きまどろみの中で
あなたが迷わないように
小さな光に
私はなりたい
混迷の先へ
踏み出す道の先へ
時の向こう側へ導けるように
迷わないように
導けるように
受け入れよう
この瞬間を
とけていくわ
あなたに届く前に
抱き締めるだけでは
愛しているだけでは
伝えられなかった
あなたのその言葉に
少しずつ壊れてゆく私
目の前の勿忘草が
涙でかすんでゆく
私に訪れる死は
もはや避けられない
あなたに黙って
あなたの邪魔を
しようとした私への
これは罰なのだ
でもあなたを
止める事が出来るなら
受け入れなくてはならない
あなたとともに滅ぶ事を
私は望まなかった
たとえ私の世界が
暗き闇に閉ざされても
これで良かったのだと
私は信じているのだから
忘れないで下さい
あなたを愛していた私を
忘れないで下さい
想いの果てで消えていく私を
真実の愛が
涙でかすんでゆく
でも私は信じている
たとえ私の世界が
暗き闇に閉ざされても
これで良かったのだと
私のこの姿を見て
あの人はきっと
思い止まってくれる
娘を幸せにするために
私がこの先
見る事も叶わない
真実の愛を祈ろう
あなたとともに滅ぶ事を
私は望まなかった
あなたに黙って
あなたの邪魔を
しようとした私への
これは罰なのだ
破滅するのは
私だけでいい
あなたと娘が
幸せなら
どうか忘れないで下さい
あなたを愛していた私を
真実を告げられぬまま
消えていく私を
目の前の勿忘草が
真実の愛が
涙でかすんでゆく……
薄れゆく意識の中で
愛する夫の声が聞こえた
伝えたい事がある
聞いて欲しい事がある
私は残った最後の力を
懸命に振り絞って言った
私のこの姿を忘れないで
そして二度とこんな事
しないと誓って
あなたにはまだ娘がいるのだから
どうかあの子を
幸せにしてあげて
私の最後のお願いよ……
風にかき消されて
しまいそうな
私のこの言葉は
あの人に届いただろうか
例え私が死んでも
ずっと消えない想い
ずっと消えない祈り
あなたには
憎む為ではなく
愛する為に
生きて欲しい
あなたの愛を
欲する人がいる限り
あなたには
愛する為に
生きて欲しい
憎む為ではなく
ただ愛する為に
素材提供:GATAG 画家:ピーテル・パウル・ルーベンス(パブリックドメイン)
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アルテミスはオリオンの
復活を願ったが
冥府の王ハデスが
それに異を唱えた
アルテミスは父であり
神々の長ゼウスに訴えた
だがゼウスも死者の復活を
認めることは出来なかった
その瞬間に一体何が
起こったのかを私は
理解出来なかった
私の放った矢は一直線に
目標へと寸分違わず
吸い込まれていった
だが矢を受けた
人間が倒れ
長い髪が
フードの奥からこぼれた
私が射抜いてしまったのは
あの蛮人の男ではなく
間違いなく女性だった
遠くて良く
見えないが
直感で私は
嫌な予感を感じた
私は門まで走った
この嫌な予感が
どうか間違いで
あって欲しいと
祈りながら……
倒れていたのは妻だった
私を止める為に
ここへ来たのだ
信じ難い現実の前で
私は成す術も無く崩れた
何という愚かな男だ私は
言葉では言い尽くせぬ
凄まじい絶望が私を襲う
失って初めて
私は知った
私が本当に
欲しかったのは
理想や信念の成就ではなく
自尊心を満たす事でも無かった
妻と子供が一緒に
幸せに暮らせる世界
それだけで良かった
何という愚かな男だ私は
この疼きは消えず
心に浸み込んでゆく
儚く散ったものが
やがて土に還るように
虚ろな静寂が痛い
耳に届くものは
全て空白の中に
溶けていくのに
思い出せた事を
伝えることも出来ず
全ては土に
空白の中に
消えてしまった
私は孤独だった
手に入れたものは
望んでいたものとは
違っていたという事に
この手が血で汚れる前に
あなたが消える前に
気付くべきだった
この疼きは消えない
虚ろな静寂が痛い
失って初めて
私は知った
愛さなければ良かったと
妻は家の反対を
押し切って私と
一緒になった
「これが私の選んだ幸せよ」
彼女はいつだって
そう言っては微笑んだ
私が間違っていた
彼女の家の者が
言っていた事が
正しかったのだ
私は彼女を
不幸にしてしまった
愛してはいけなかった
私は震える手で
妻に手を伸ばした
妻は目を開いた
そして私を見た
その顔は優しく
微笑んでいた
そして妻は私に
こう言ったのだ
「私のこの姿を忘れないで
そして二度とこんな事
しないと誓って
あなたにはまだ娘がいるのだから
どうかあの子を
幸せにしてあげて
私の最後のお願いよ……」
それが最後の妻の言葉だった
この事件から私は
一生償う術の無い
罪を背負う事になった
嘆き、哀しみ
呪われた色彩の
闇の世界をただ
彷徨い続けていた
だが私には
娘が残されていた
妻の最後の言葉が
私のこれからの生を
僅かに照らす小さな光となった
立ち止まることは許されない
私は愛する娘の為にも
歩み続けなければならない
残された愛の為に
生きていこう
失われた世界の中で
あなたのいない世界の中で
贖罪と運命の重荷を背負って
それでも私は
生きていこう
たったひとつ
私に許される
残された愛の為に……
素材提供:GATAG 画家:ウィリアム・アドルフ・ブグロー(パブリックドメイン)
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アルテミスは矢を放ち
オリオンは愛する者の
矢に射られて死んだ
月と狩猟の女神が
オリオンの死を
知ったのは翌日に
彼の遺骸が浜辺に
打ち上げられてからだった
残された愛の為に
生きていこう
失われた世界の中で
あなたのいない世界の中で
贖罪と運命の重荷を背負って
それでも私は
生きていこう
たったひとつ
私に許される
残された愛の為に……
「決行は明日、例の宮殿の
裏手の通用門前にあの男が
謁見の為来た時を狙います」
夫の協力者の人は
それだけを私に告げ
逃げるように去った
私は妻なのだと言っても
なかなか協力者の人は
計画の内容を話さなかった
私は彼の妻でありながら
夫が生か死かという時に
祈る事すら出来ないのか
そう言うと渋々ながらも
とうとう教えて頂けた
その日の夜私は
一睡も出来なかった
私はそのまどろみの
中で固く決意していた
あの人を止めに行こう
私の事はかまわない
武人であるこの人と
一緒になったあの時に
もう覚悟は出来ていた
ただ残された子供は
簒奪者の娘かまたは
罪人の娘という汚名を
背負って生きる事になる
それだけならまだしも
今回の事で私達二人が
夫を失う事になったら
そう考えるだけで私は
恐ろしくて眠れなかった
夫の言いたい事は
痛い程理解している
西ゴート王国国王
アラリックがローマに
攻め入って略奪を行った時
抵抗するローマ人は皆無だった
それでも誰一人ローマが
この先どうなるのかを
考えようとしなかった
ほとんどの人がそれでも
この永遠のローマが
滅びるはずが無いと
信じて疑わないのだ
長き平和で豊かな時は
人々から考える事を
奪ってしまった
それでも私は思う
蛮人を無益に追求せんと
する者は自らを単に自国の
支配者たらしめるのみだが
蛮人の主人となり彼等を
保護しようとする者は
自らを全ての人々の
支配者とする事ができる
自己の価値観の固執に
付随する他者への否定
これがいつの世も国を
滅ぼしたと歴史は語る
無抵抗で滅びを待つか
抗って対立者を退けるか
何が正解なのか結局
私にはわからなかった
ただ私の中で揺ぎ無いのは
夫であるあなたを止める事
翌日の朝私は夫が
寝ているのを確認して
先に家を出て宮殿へ向かった
暗殺を行おうとしている
裏手の通用門の前で
愛する夫を待つのだ
答えなんてわからない
だからこそ私はあなたを
止めなくてはならない
裏手の通用門を探すのに
時間がかかってしまった
焦る気持ちに背を押され
ようやくその場にたどり着いた
まだ誰もいないようだわ
ここであの人を待とう
きっと私の前で夫は
人を殺せない
塀の向こうには
この門を見下ろせる
建物がいくつもあった
私を見知る夫の仲間も
この宮殿にはいる
私は顔をフードで隠し
通用門へと近付いた
そして次の瞬間
破滅を告げる角笛に
似た音を連れて突然
私の体を一本の矢が
刺し貫いていた……
素材提供:GATAG 画家:ローレンス・アルマ=タデマ(パブリックドメイン)
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アポロンの罠で
遠くにいた為に
女神アルテミスは
それがオリオンと
全く気付かぬまま
挑発に乗ってしまった
あなたには
憎む為ではなく
愛する為に
生きて欲しい
あなたの愛を
欲する人がいる限り
あなたには
愛する為に
生きて欲しい
憎む為ではなく
ただ愛する為に……
朝起きてから一度も
妻の姿を見なかった
家から出て
外を見回したが
それらしき人影も
見当たらなかった
見限られて当然だな
もし暗殺が
成されても
私が無事である
保証は全く無い
失敗すれば
どうなるかは
言うまでも無いが
私はまだ寝ている
子供に視線を向けた
これが最後の別れに
なるかもしれない
私は子供の頭を
なでてやった後
弓矢を持って
我が家を出た
私が震えているのは
決して肌寒い朝の
この空気のせいでは
ないだろうと思った
ついに決行の日だ
私は協力者の男の
案内に従って
通用門を見下ろせる
建物の屋上に来た
外壁の外からだと
邪魔が入る可能性が
否定出来ないので
この宮殿の内側から
来訪する蛮人の男を狙う
ここなら邪魔は入らない
かなりの距離はあるが
障害になりそうなものも
通用門までの間には無い
私の腕なら
確実に仕留められる
協力者の話によれば
あの蛮人の男は
この宮殿の主に
謁見する為に
今日あの門をくぐる
その瞬間を私は狙う
あの通用門は来客用だ
他の人間は絶対来ない
だが問題はあの蛮人に
従者がいた場合の事だ
恐らく奴の豪奢な
身なりで見分けは
つくと思うのだが
もし来訪者が複数で
奴を特定出来なければ
また別の機会を
探さねばならない
さらに言えば従者が
いた場合は私の身も
危うくなるだろう
暗殺が成功しても
失敗しても即座に
従者は矢の飛んできた
方向へ向かって来るはずだ
逃げ切れるだろうか私は
そんな私の危惧は
杞憂に終わった様だ
奴が門の前に現れた
しかも一人だった
奴は命を狙われている事を
既に感付いているのだ
フードで顔を隠しその行動を
他人に悟らせぬつもりか
用心深い奴らしい姿だ
だが無駄な配慮だな
もはやお前の命運は
私がこの手に握っている
私は弓を静かに構え
慎重にあの蛮人の男に
狙いを定めそして……
矢を放った
素材提供:GATAG 画家:コッラード・ジアキント(パブリックドメイン)
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それを見たアポロンは
アルテミスに言った
狩りの女神とはいえ
あれほど遠くにある
的を射る事は出来まい
アポロンが指差す先は
海に入って頭部だけ
水面から出していた
狩人オリオンであった
蛮人はありとあらゆる
絶対悪を詰め込んだ
パンドラの箱なのだと
我は快感をもって
穢れた蛮人の破壊を
放火を殺人を描こう
永遠のローマの理念
ローマに与えられた
宗教的啓示への信仰
我々はそのローマ理念を
キリスト教歴史哲学により
武装し直す事によって
信仰をさらに強化したのだ
ローマの永遠性ゆえに
与えられる安定した秩序
追随する伝統的な蛮人蔑視観
我々の意識にそれは
深くそして甘く浸透する
自覚していても抗えない
奴等を認めてはならぬ
昔からローマ人の
奴隷だった奴等を
永遠のローマへの信仰の為に
穢れた蛮人の破壊を
放火を殺人を描こう
蛮人はありとあらゆる
絶対悪を詰め込んだ
パンドラの箱なのだと……
「あなたの妻は
驚くほど聡明だ
元は良家の生まれで
確かな教育を受けた
そう聞いた記憶がある」
そう言って頷く
目の前の男は
私の無二の片腕とも
言うべき協力者だ
宮廷に仕えている彼が
私を暗殺の場所にまで
招き入れてくれるのだ
現在私は暗殺計画の
最終の打ち合わせを
この男と行っている
私の妻は最後まで
これからする事に
反対をしていた
無理からぬ事だ
失敗すれば私に
どのような運命が
待ち受けているか
想像するまでも無い
思えば私が妻の
あれほどまでに
頑なな姿を見たのは
恐らく今回が初めてだ
彼女なりにきっと
思うところが
あったのだろう
だがそんな迷いには
散々時間を費やした
この最後の計画の日を
私が迎えるまでに……
誰かがやらねばならないのだ
目の前の男は
そんな私に念を
押すかのように
用心深く語った
「あなたの妻が今回の
この計画に反対だと
既に私も知っているが
だからこそ聞いて欲しい
キュレネのシュネシオスを
あなたも知っているだろう
リビアのプトレマイス司教だ
君主制論の中で彼はこう言った
『かつてのスパルタクスの
叛乱の様にローマの蛮人
司令官が同種族奴隷の
解放戦を行う事も可能だ
そうならぬ内に
腐り果てた芽を
刈り取るべきである
犬は追い払うべし』
アルカディウス宮殿での
彼の演説、蛮人排撃論だ
この内容を数百年前の
ポリス的な時代錯誤で
かつ非現実だと嘲笑う
事など私には出来ない
現状を冷静に見て欲しい
蛮人に地位を脅かされ
そして奪われながら
生きていくローマ人を
今こそ我々は
ローマ的精神を
再獲得し蛮人との
共同などすべきではない
ローマ人はアジア
ヨーロッパにおいて
我が帝国国境を越え
蛮人を撃つは自明である
その為には強力なローマ
国民軍を創造せねばならぬ
神が選ばれた民に与えたもうた
永遠のローマの為に」
その男の言葉に
反論の余地は無かった
少なくとも私は
そう確信していたのだ
だが私の脳裏に
妻の姿が浮かんだ
美しく聡明な妻の姿が
私は軽く頭を振って
雑念を追い払った
そして再び自分に
強く言い聞かせた
誰かがやらねばならないのだ
私はあの蛮人の男を
今や司令官となって
私腹を肥やすあの男を
射抜くであろう弓矢
それを握る手に力を込めた……
素材提供:GATAG 画家:ウィリアム・アドルフ・ブグロー(パブリックドメイン)
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