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Destination Station of a Dream
一人の少年が
誰もいなくなった世界で
今もずっと立ち続けています
でも男の子はついに
教えてもらえませんでした
やがて彼女は亡くなって
もう家には誰もいません
彼女は自分の
悲しい気持ちを
男の子に感じて
もらいたくなくて
死について教えなかったのです
一人の少年が
誰もいなくなった世界で
今もずっと立ち続けています
今もずっと
1月15日、晴れ
今日はちょっとだけ
いい事があった
まだ寝てるのに
お父さんがまた勝手に
私の部屋に入ってきた
文句を言う私を無視して
お父さんは窓のカーテンを
開けながらこんな事を言う
「あれ、あそこにいるのは
私の仕事の知り合いの
息子さんじゃないか……」
通学の途中みたいだ
決してかっこいい
わけじゃなかったけど
目のキレイな男の子だった
1月18日、雨
今日は傘のせいで
あの男の子の顔が
見れなかった
ちょっと残念
些細な事だけど
窓の外に少しだけ
楽しみを見つけたのに
1月21日、くもり
窓の外にはいつもの時間に
あの男の子がこの道を通る
学校の通学路なのだろう
友達とはしゃぎながら
やがてその先の交差点を
左に曲がって行ってしまう
雨が降らなくて
本当に良かった
傘であの子の顔が
見えなくなるから
1月24日、くもり
今日はあまり
体調が良くない
椅子に座るだけで
けっこう辛いので
明日じっくり書こう
いい事がたくさんあったのだ
1月27日、晴れ時々くもり
やっと体調が復活
実は日記に書かなきゃ
いけないことがたくさん
その中でも特に凄いのが
私の誕生日パーティだ
そしてなんと
あの男の子も
来るらしいのだ
仕事の友人とその息子も
呼んであるとお父さんは
確かにそう言っていた
これはちょっと大事件だ
当日の服をどれにするか
気合を入れて選ばないと
あまり過剰な期待は
出来ないってちゃんと
わかってるつもりだけど
友達になってもらえるかな
写真素材♪ラブフリーフォト 撮影者:べりぃ 様
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警察での事情聴取は
驚く程簡単に終わった
そして警察の人は
最後に僕にこう言った
「彼女が持っていた
日記は間違いなく
本人の筆跡だったよ」
亡くなった彼女に
僕は守られていた
僕に非は無いという
内容だったのだろう
僕は彼女の葬儀に出た
逃げる事は絶対に
許されなかった
もし誰かが許しても
僕自身が許せなかった
親族の人や関係者が
たくさん訪れていた
もちろん全員僕の事を
知っているはずだった
その場の誰も僕に
何も言わなかった
ただ泣きながら
静かに微笑んでいた
それが僕を
いっそう苦しめた
ありがとうと言われた
何を言ってるんだろうと
はっきりしない頭の中で
そんな事を考えていた
誰も何も言わない
泣いているのに
それでも微笑んで
ありがとうと言った
それが僕を
いっそう苦しめた
そのお礼を言っている人が
彼女の母親だと気付いた時
隣に立っていた父親が
僕に話しかけてきた
「……君を殴って
やろうと思っていた
だが子供が
持っていた
日記を読んで
私の考えは全く逆に
変わってしまったよ
本当にすまなかった
つらい思いをさせた
日記にも書いてあるが
君が気に病む必要は無い
残念だが私の子供はもう
長くは無かったのだから
子供の遺言が日記の
最後に書かれていた
君にこの日記を
渡して欲しい、と……」
僕は受け取った彼女の
日記を呆然と眺めていた
彼女との最後の夜に見た
あの日記帳だった
僕は彼女の気持ちを
知るのが怖かった
答えは目の前にあった
だがそれを見るのに
少なくない勇気が
必要だったのだ
恨んでいただろうか
不自由の無い体の僕を
妬んでいただろうか
結果として僕は
彼女に何もして
あげられなかった
苦しかったはずだ
悲しかったはずだ
その先に希望など
無いと知っていた
それでも僕はあの笑顔を
嘘だと思いたくなかった
どうしても信じたかった
答えは目の前にあった
でも僕は彼女の気持ちを
知るのが怖かった
写真提供:GATAG 著作者:George Hodan(著作権放棄)
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どうやらここは
自然公園らしい
舗装されていない
駐車場の奥に何か
小さな建物が並ぶ
最初はトイレで夜を
明かす事になるかと
思ったのだが幸いにも
休憩施設が備わってた
トイレは窓もドアも無く
吹きさらしの建物だった
だけどその休憩施設には
外気を遮断する窓もある
入り口の床が地面だった
拾ってきた木や草もある
そこで僕は木と草を積み
奥の喫煙室から拝借した
ライターで着火し暖を取る
何とか僕たちは助かった様だ
僕がそうしている間
あの娘はずっと椅子に
座って何かを書いていた
日記だと言って彼女は
照れくさそうに笑った
彼女が持っていた
肩掛けのバックには
日記が入っていたのだ
眠る前に彼女は
その日記を絶対に
見ないでねと僕に
何度も念を押した
信用が無いんだなあと
僕が言ったら彼女は
笑いながらこう言った
「信用してるよ」
僕はその夜眠らなかった
火を絶やさないように
たくさん出る白い煙が
部屋にこもらないように
翌日の朝早くに
彼女は目を覚ました
そして僕を見て
柔らかく微笑んだ
「何とか夜を越せたね
君が厚着だったのも
良かったんだと思う」
僕がそう言うと
悪戯っ子の様な
表情で白状した
「当然だよ
だって計画的
犯行だったからね」
僕は呆気に取られて
何も言えなかった
最初からこの娘は
すぐ帰るつもりなど
全く無かったのだ
「ごめんね
でも本当にありがとう」
彼女はそう言いながら
僕の文句から逃げる様に
ドアを開けて外に出て
そこで突然倒れた
悪い冗談かと思って
僕は彼女に呼びかけた
だが彼女は動かなかった
慌てて彼女を
抱きかかえたが
息をしていなかった
脈らしきものも感じない
世界が暗転した
僕は悪い夢を見ていた
僕の声は届かなかった
彼女の命を奪ったのは
僕だと気付いてしまった
風のざわめきの中で
小鳥達のさえずりの中で
木漏れ日の煌めきの中で
微笑みながら君は
眠り続けていた
僕の声は届かなかった
僕は悪い夢を見ていた
小鳥達のさえずりの中で
木漏れ日の煌めきの中で
風のざわめきの中で
「ごめんね
でも本当にありがとう」
君の最後の言葉が
僕の胸を深く抉った
無理にでも彼女を
止めるべきだった
世界が急速に色褪せてゆく
僕は取り返しの
付かない事を
してしまった
君の笑顔の代償は
余りにも大きかった
僕は罰を受けなければ
目の前の事実が
氷の冷たさで
刃となって
鈍く光る
その向けられた
絶望の刃を僕に
突き刺してくれ
僕の胸の
奥底に渦巻く
罪に届くように
君の笑顔の代償
冷たい絶望の刃
背負った罪と罰
その痛みに
耐えられなければ
そこで全ては終わる……
写真提供:GATAG PublicDomainPictures(著作権放棄)
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本当に僕が馬鹿だった
そうとしか思えなかった
確かに、駅のホームから
見えた海は近くに感じた
恐らく20分も歩けば
たどり着ける距離だなと
10分歩いてなぜ
終点の駅が海まで
届いていないのか
すぐに思い知った
目の前は崖だった
森に隠れて見えなかった
どうやら海まで行くには
ずっと西まで森を抜けて
遠回りしなければ駄目だ
引き返そうか、と
僕が言うと彼女は
泣きそうな視線で
僕を見つめ返した
でもそれは彼女が
わがままを通す為に
演技をしているわけでは
無いと僕もわかっていた
今まで何度も引き返そうと
言い続けているうちに
気が付いてしまった
「戻ろうか」
この言葉は彼女にとって
人生で初めて見る夢の
終わりを意味してたのだ
本当に甘いな僕は
そう思ったけれど
「……もう少しだけなら
先に進んでみてもいいよ
あの海の方面に降りられる
場所があるかもしれないし」
その言葉に彼女は
本当に嬉しそうに笑う
だが僕が馬鹿だった
そうとしか思えなかった
30分後にはどっちが海か
どっちが駅かもわからなく
なってしまっていたのだ
これはまずいと彼女に
借りた携帯の画面には
「圏外」の文字が浮かぶ
僕は取り返しの
つかないことを
してしまったかも
しれないと思った
3月になったとはいえ
夜や明け方の冷え込みは
まだかなり厳しいはずだ
僕には問題が無くても
彼女はそうはいかない
最悪の予感が頭をよぎる
考えたくも無い最悪の予感が
だが当の本人は
全く落ち込んだ
様子が無かった
たくさん話しながら
楽しそうに森の中を
軽やかに歩いていく
病気だなんて嘘みたいに
世界って眩しいね
風がくすぐったい
そう言いながら
僕の方へ振り向いて
幸せそうに笑っていた
風がくすぐったいなんて
思ったこともなかった
世界が輝いているなんて
思ったこともなかった
草原で転んで
痛くないと
笑っていた
川の水が
冷たいと
驚いていた
誰もいないところで
悩んでいるくせに
誰もいないところで
泣いているくせに
それでもあの娘は
幸せだと笑った
僕に出来る事なんて
もう何もなかった
風がくすぐったいなんて
思ったこともなかった
世界が輝いているなんて
思ったこともなかった
出逢ってしまったことに
僕は激しく後悔していた
出逢わなければきっと
あの娘は幸せだった
少なくともこんな
酷く寂しい場所で
死に怯えなくても
済んだはずだった
悩んでいたくせに
泣いていたくせに
それでもあの娘は
幸せだと笑った
陽は西へ大きく傾き
無慈悲な夜の到来を
僕たちに告げていた……
写真撮影者:サヤキ
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その場の誰も僕に
何も言わなかった
ただ泣きながら
静かに微笑んでいた
それが僕を
いっそう苦しめた
ありがとうと言われた
何を言ってるんだろうと
はっきりしない頭の中で
そんな事を考えていた
誰も何も言わない
泣いているのに
それでも微笑んで
ありがとうと言った
それが僕を
いっそう苦しめた
僕たちは現在
なぜか電車に
乗っている
言い訳をしなければ
いけないと思うのだ
外に出た彼女は突然
海が見たいと言った
あの時見れなかった海を
気持ちはわからなくは
なかったのだけれど
当然僕は駄目だと言った
彼女は目を細めて
軽く微笑みながら
こんな事を言った
「歩いている方が体に
負担がかかるわよね
電車で行くのだから
その方が私は楽だわ」
そういう問題じゃ
無いだろうと僕は
もちろん反論した
すると彼女は
ますます目を細めて
僕を脅す作戦に出た
「私はこうして外に
もう出てしまった
あなたも共犯だね
私達もう、引き返せないのよっ」
なんて酷い話だ
騙されたのか僕
でも彼女の言葉に
反論は出来なかった
僕は確かに共犯だし
あまり彼女が歩くのを
見てはいられなかった
最初はあんなに
軽かった足取りが
数分でみじめに
引きずられていた
持っている肩掛けの
小さなバックですら
重そうに見えてしまう
座って景色を
眺めるだけの
電車の方が
賢い選択じゃ
ないかと思った
僕はもう既に
気付いていた
これが彼女の最後の
自由なのだという事に
なるべく彼女の
わがままを聞いて
あげようと僕は病院を
出る時に決めていたのだ
物凄く
怒られると
思うけれど
でも、目の前で
窓の外を眺めながら
子供のようにはしゃぐ
彼女の姿を見ていたら
そんな事は
どうでもいいと
その時の僕は
思ってしまった
やがて電車は
終点に着いた
海が見える小高い
自然に囲まれた山麓
駅のすぐ傍に
美しい森の間を
海へ向かって
川が流れていた
電車を降りて
彼女は木々の間に
ほんの少し見える
海をずっと眺めてた
本当はそこまで
君を連れて行って
あげたかったけど
帰りの電車代しか
僕の財布にはもう
残されてなかった
僕はそれを正直に
彼女に打ち明けて
君の気が済んだら
戻ろうかと言った
彼女はすぐには
答えなかった
そしてしばらくして
こんな事を僕に言った
「歩いて行けない
距離じゃなさそう
ね、行ってみない?」
写真提供:写真素材「足成」様
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