[PR]
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
Destination Station of a Dream
あの時と同じ
空気のにおいがした
あの時と同じ
水のせせらぎが聞こえた
まるであの頃の僕を
切り取ってこの場所へ
置き去りにしたかの様に
雨が降る中
僕は歩き始める
あの時と
同じ空気の
この場所から
あの時と同じ
水のせせらぎの
この場所から
切り取られ
時を止めた
この場所から
置き去りにされた
この場所から
再び雨の降る中
僕は歩き始める
「裏庭の奥に扉があるの」
そんな事を彼女は
声をひそめて僕に言う
今日の彼女は私服姿だ
不覚にもかわいいな
などと思ってしまったが
その次の言葉を聞いて
そんな感想はどこかへ
木っ端微塵に吹き飛んだ
「脱走するのよ私達」
僕は一瞬彼女が
何を言っているのか
全くわからなかった
脱走……私「達」
って、僕もなのか
脱走っていったい何
病院からって事なの?
そんな僕の質問に
失望の表情で肩を
すくめて見せる彼女
「病院からの脱走に
決まってるでしょ
人生にはたった
2つのモノしか
存在しないのよ
やるか、やらないか」
得意げに笑いながら
そう断言する彼女に
僕は断固として抗議
しなければならない
「何無茶苦茶な事
言ってるんだよ
そんなの駄目に
決まってるって」
僕のその言葉に
彼女は怒ると思った
なのに彼女は
寂しそうにこう言った
「最近調子が
少し良くて
お医者様から
外出許可が出たの
だけど外出と言っても
親の監視付きなのは
間違いないと思うの
せっかくの自由なのに
だから少しの間だけでも
親が迎えに来る前に
ここから抜け出して
その自由ってものを
味わってみたいだけ
本当にそれだけなの
協力、してくれるよね」
本当にずるいなぁと思った
そんな顔でお願いされたら
嫌だなんてとても言えない
僕はそんな事を
考えながらも
最後の抵抗を
試みたのだった
「でも、何かあったら
いったいどうするの
また発作でも起きて
大変な事になったら」
彼女は不敵に笑って
ポケットから携帯を出し
僕の目の前に突き出した
「大丈夫よ、ほらこれ
父親って仕事で3つ
携帯持ってるんだけど
そのうち1つはほとんど
使わなくなったらしいから
ちょっと借りてきちゃった
中庭や裏庭に出たら使えるし」
借りてきたなんて
本当なんだろうか
黙って持ち出した
そんな気がするが
言わないのが賢明だきっと
彼女は何も言えない僕に
さらに言葉を続けた
「だからお願い
何かあったら
すぐ携帯使うから
少しだけ出ようよ」
僕はどうするか迷った
でも、確かに彼女の言う通り
再び僕たちが話すようになった
ここ3日くらいは彼女の様子も
決して悪い様には見えなかった
ほんの少しの時間なら
ここで僕と話してるのと
彼女の負担はたいして
変わらないだろうと思う
彼女は真剣な眼差しで
僕の返答を待っていた
僕は大きくため息を
つきながらそれに答えた
「……わかった、つきあうよ」
写真撮影者:サヤキ
詩・ポエム ブログランキングへ
にほんブログ村 ←良い記事と思って頂けた方、宜しければクリックお願いします
僕は彼女の気持ちを
知るのが怖かった
答えは目の前にあった
だがそれを見るのに
少なくない勇気が
必要だったのだ
恨んでいただろうか
不自由の無い体の僕を
妬んでいただろうか
結果として僕は
彼女に何もして
あげられなかった
苦しかったはずだ
悲しかったはずだ
その先に希望など
無いと知っていた
それでも僕はあの笑顔を
嘘だと思いたくなかった
どうしても信じたかった
答えは目の前にあった
でも僕は彼女の気持ちを
知るのが怖かった
4日目の夕方
ついに彼女は
折れてくれた
今まで決して
開かなかった
個室のドアが
ゆっくりと開いた
「あなたって馬鹿なのか
よっぽど暇なのね」
久しぶりに顔を
見たというのに
彼女の言葉には
容赦の欠片も無い
僕は笑って答えた
どうもそうみたいだ、と
彼女の目は
赤くなっていた
それを見て僕は
少し心が痛んだ
二人で、談話室のように
訪れる人が自由に使える
広めのフロアへと移動した
彼女はどうやら
観念したらしく
おとなしく僕の
後ろについてきた
でもそれからの彼女は
昨日までの彼女とは
まるで別人だった
たくさん笑って
怒って拗ねて
そしてまた笑う
無くしていた時間を
僕たちは取り戻した
そんな彼女は
自分が今着ている
病院服がご不満らしい
「どうせ明日も来るんでしょ
なら私の家に寄って私服を
持ってきて欲しいんだけど
家にはちゃんと
連絡しておくから
お使いよろしくね」
などと言う
女の子って
そういうものなのか
どうせ彼女の家は
この病院に来る途中だ
断る理由も無いので
軽い気持ちでいいよと
言ったのに睨まれてる
なぜそんな凄い形相に
なってるのかわからず
困ってる僕に彼女は
こんな失礼な事を言う
「途中で中見ちゃ駄目よ絶対に」
写真撮影者:サヤキ
にほんブログ村 ←良い記事と思って頂けた方、宜しければクリックお願いします
僕は悪い夢を見ていた
僕の声は届かなかった
彼女の命を奪ったのは
僕だと気付いてしまった
風のざわめきの中で
小鳥達のさえずりの中で
木漏れ日の煌めきの中で
微笑みながら君は
眠り続けていた
僕の声は届かなかった
僕は悪い夢を見ていた
小鳥達のさえずりの中で
木漏れ日の煌めきの中で
風のざわめきの中で
僕の姿を見た彼女は
笑ったように見えた
僕は急いで駆け寄ったが
彼女は笑っていなかった
僕と視線すらあわせようと
しないまま冷たい声で言う
「何しに来たの
ここ病院よ
元気な人が
気軽に出入りして
いい場所じゃないわ」
僕は言葉を失った
ここがどんな場所か
いくらなんでも
わからないわけがない
末期患者の病棟だ
ここに入った人は
ほぼ二度と出られない
死を迎える患者達が
心を安らげる為の施設
僕は何をしにここへ
来たというのだろう
慰めに来たのか
励ましに来たのか
そんな僕へ彼女は
感情の無い声で言う
「もう来ないでって
確かに私言ったよね
もう物好きの気紛れに
付き合える様な余裕は
今の私には無いの」
僕はそんな彼女の
言葉をさえぎる様に
自分でも驚くような
言葉を叫んでしまった
「好きなんだ君が」
狭い病院の廊下に
はっきりと僕の声は
響いて消えていった
僕も彼女も
しばらく動けなかった
僕は急に怖くなった
後戻りは出来なかった
僕は自分の気持ちを
確かめるように
言葉を続けた
「気紛れなんかじゃない
馬鹿みたいだと思うけど
僕は本気なんだ……」
僕のなけなしの勇気は
そこで空っぽになった
確かに最初は同情だった
偽善者だと自分でも思う
でも自分の気持ちに
嘘はつけなかった
僕はゆっくりと
床に落としていた
自分の視線を
彼女の方へ向けた
彼女は目を見開き
僕を凝視して
その瞳から大粒の
涙を流していた
その流れ落ちる涙が
どういう意味なのか
確かめる前に
彼女は叫んだ
「うるさい……
うるさい帰れ
もう帰ってよ」
振り返りもせずに
彼女は自分の
個室へ駆け込んで
ドアを閉めた
僕は追いかける
勇気が無かった
ただ呆然と
看護師の人が
面会時刻終了を
告げに来るまで
ずっとその場に立ち尽くしていた
写真提供:写真素材「足成」様
にほんブログ村 ←良い記事と思って頂けた方、宜しければクリックお願いします
僕は流れのその先に
向かってたった一人
目を閉じて語りかける
天国に行った君の中では
僕はずっといつまでも
少年のままなんだろうね
幸せな夢を見ながら
眠りについたのだと
せめて僕は信じたい
生きている僕は
一体どうすれば
いいのだろうか
この記憶と一緒に
生きていく覚悟は
出来てるつもりだ
僕が犯した罪
そしてこれからも僕が
ずっと受け続けていく
僕への罰
記憶がゆっくりと
意識の湖底に沈む
君のいない世界で
幸せな夢を見ながら
そう、君のいない世界で
昨日の彼女は少し
様子が変な気がした
具体的に何がと言われると
僕にもよくわからないけど
あの娘は笑っていても
心の底から笑ってない
それにはもう気付いてた
それは仕方がないと
僕はそう思っている
軽々しく僕もわかる
なんて言えなかった
小さい頃から彼女は
ほとんど自宅から
出た事がなかった
一度どうしても
海が見たいと
わがままを言って
親を困らせたそうだ
根負けした父親の
車の中であの娘は
激しい発作を起こした
命を取り留めた代わりに
彼女は翼を失った
「二度と部屋から出るなんて
自分から言えなくなったよ」
そう言って彼女は
力無く微笑んで見せた
彼女は再び目を覚ました時
海が見れなかった失望で
最初にこう思ったそうだ
私は何の為に生きてるのだろう
ただ親が泣く顔はもう
見たくないと彼女は言う
その為にこの娘は自らの
翼を自分でもぎ取った
この狭い部屋と
窓から見える風景
それだけが彼女の
世界の全てだった
僕はただ黙って
でも真剣に
彼女の話を
聞き続けていた
それしか出来ない
自分の無力さに
打ちのめされながら
だが昨日の彼女は
いつもと違った
明日何時くらいに来るのとか
当番なんてさぼって早く来い
なんて事は何度も言ってたが
もう来るなと言ったのは初めてだった
僕が彼女の家に
行くようになって
一ヶ月が過ぎていた
もちろんこのままで
良いとはとても思えず
今日も僕は彼女の家に
来てしまっているのだ
なぜ昨日の彼女は
あんな事を言ったのか
それを僕は彼女の
母親の言葉で理解した
今朝彼女は入院したらしい
僕を心配させない為に
あんな事を言った……
なんて自惚れだろうか
そんな事を
考えるよりも早く
僕の足は無意識に
その病院へ向かっていた
写真提供:写真素材「足成」様
にほんブログ村 ←良い記事と思って頂けた方、宜しければクリックお願いします
僕は取り返しの
付かない事を
してしまった
君の笑顔の代償は
余りにも大きかった
僕は罰を受けなければ
目の前の事実が
氷の冷たさで
刃となって
鈍く光る
その向けられた
絶望の刃を僕に
突き刺してくれ
僕の胸の
奥底に渦巻く
罪に届くように
君の笑顔の代償
冷たい絶望の刃
背負った罪と罰
その痛みに
耐えられなければ
そこで全ては終わる
学校の帰りに
あの娘の家に
寄り道するのが
僕の日課になっていた
「物好きねえあなたって
毎日よくあきもせずさ」
天使の笑顔で君は僕に
そんなひどい事を言う
しかし用意する
お菓子とお茶は
いつも二人分だ
何を話したかなど
覚えていなかった
他愛も無い世間話
身の回りの出来事
僕に何か出来るなんて
思っていなかったけど
僕は無力だった
ここに来れば何か
あるかもしれない
なんて妄想だった
僕は物好きでここへ来る
それ以上の人にだなんて
到底なれそうもなかった
つまらない話にも
彼女はよく笑った
少なくとも僕には
楽しそうに見えた
それだけが救いだった
帰りに見送ってくれた
あの娘の母親が庭先で
本当にありがとう、と
泣きながら僕に言った
僕はきっと明日も
ここに来るだろう
偽善者だと僕の中で
僕への声が聞こえる
ちゃんと自覚はある
だけどたとえ偽善でも
しないで家に帰るより
何倍もましだと思った
僕に何か出来るなんて
思っていなかったけど
学校の帰りに
あの娘の家に
寄り道するのが
僕の日課になっていた
写真提供:写真素材「足成」様
にほんブログ村 ←良い記事と思って頂けた方、宜しければクリックお願いします