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2024/11/21

「想いは流れる」第十七詩:3月2日、雨のちくもり





3月2日、雨のちくもり 




誰もいない部屋で 

たったひとり 

耳をふさぎ 

目を閉じる 




私はそれでも 

祈り続けた 




今日は散々だった 

お医者さんに見せて 

もらった検査結果も 

酷い内容だったし 




それを証明 

するかのように 

体調も最悪だった 




隣の個室の人は 

今日の昼に亡くなった 

私と同じ病気だった 




お父さんやお母さんの 

心配ないから、という 

言葉にまで反感を持った 




助からないの知ってるくせに 




私の心は荒れていた 

まわりのもの全てに 

悪意を感じていた 




私は昼過ぎからずっと 

自分の個室に閉じこもり 

現実逃避をしていた 




そうしないともう 

自分を保てなかった 




ご飯を食べる元気も 

薬を飲む気力も無い 

何もする気になれず 




ベッドで横になったままだった 




他人の話し声が 

凄く耳障りだった 

人の足音にすら 

心臓が縮み上がった 




また誰か死んだのかと 

憂鬱な気分になるのだ 




両親の言葉も 

お医者さんの言葉も 

もう聞きたくなかった 




検査の結果なんて 

いまさら見たくなかった 

誰かが亡くなるところも 

もう見たくなかった 




ここは末期患者の病棟 




こうなる事は 

わかっていた 

わかっていても 

耐えられなかった 




そして驚いた事に

彼は今日もここへ来た

凄く嬉しいのと同じだけ

つらくてたまらなかった




彼は決して無理に

出て来いとは言わない




「出てくるまで待つから」




そう言って面会時間が

終わるまでずっと

扉の向こうにいた




私は頭から

布団をかぶって

耳をふさぎ

目を閉じた




彼の声を聞くのが

一番苦しかった

一番悲しかった




それでも私は

祈る事をやめはしなかった




彼が私のことを

次の恋でもして

もう忘れてしまうように




そして二度と思い出さないように




私はこれから

死ぬまで毎日

誰もいない部屋で

たったひとり




彼の為に祈り続ける




もう何も見たくなかった

もう何も聞きたくなかった

それでも私は彼の幸せの為に




祈り続けるのをやめはしない




誰もいない部屋で

たったひとり……
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
3月4日、晴れ




あれから毎日

彼はここへ来ていた

そのたびに私は

ずっと悩んでいた




本当に彼は

底無しのお人好しだ

このままではきっと




私が死ぬまで毎日

ここに来るだろう




「気紛れなんかじゃない

馬鹿みたいだと思うけど

僕は本気なんだ……」




彼は好きだと

告白してくれたあと

確かにそう言っていた




知ってるよそんな事

だからつらいんじゃない




でもこのままだと確実に

私の死を彼は見る事になる

それだと私のしている事は

何の意味も無くなってしまう




私にはもうわかっていた

君が出てくるまで僕は

いつまでも待ってるから

そう彼は言っていた




きっと明日も明後日も

彼は来てくれるだろう




私は彼の幸せを祈る

などと言いながら実は

自己満足に固執してた

だけだったのではないか




嫌なものは見たくない

嫌な事は聞きたくない

それが扉の向こうにいる

彼の為になるだろうか




神様がくれた時間を

彼の為に使うと言いながら

彼の泣くところを

見たくないと言いながら




そして彼の声さえも

聞きたくないと言いながら

結局私は逃げていた

だけだったのではないか




私は彼が帰った後もずっと

自問自答を繰り返していた

きっと明日も明後日も

彼は来てくれるだろう




悩んでる時間は無い

このままだと確実に

私の死を彼は見る事になる

それだと私のしている事は




何の意味も無くなってしまう……
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

写真提供;GATAG 著者:Eddi van W.

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2014/03/06 散文詩:連作で小説に近い詩 Comment(0)

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